第32話 仮説-2
「……」
私の足を直した玩具修理者は無言で消えた。
新しい足は殆ど人のモノに近く、灰色の肌をしている以外には、以前の歪な塊を人の足の形に押し込めたような物とは、比べ物にならない出来だった。
「……」
私を乗せた獣が、様子を伺うような目を向ける。
だけど一言も喋らない。話しかけるなと言ったのを守っているのかもしれない。
「……一旦戻りましょう……ツァト様や、アトラが待っています。……燃料も……どうやらこの泥はよく燃えるらしいので」
さっきの雷で引火したのは見た。独特な匂いはするけど、湖にいた異形ような異臭ではないし……まあ大丈夫だと思う。多分。
「……落ち着いたようで、何よりだ。しかしこれをどうやって持って帰るのだ……?」
「あなたの大きなお口がありますよね?それは何の為にあるのですか?」
「少なくとも泥を運ぶ為じゃあ、ないな」
「……じゃあ、何のためにあるのですか?」
「……飯を食う為だ」
素朴な性格の彼なら、そう言うと思った。
なら次で詰みだ。
「……じゃあ、ご飯を食べる為に、泥を運んで頂けますでしょうか?獣の王様?」
「ふ、くく……これは一本とられた。ならば、仕方ないな。この程度造作もない事だ」
真面目に言ってるのに、何で笑ってるんだろう?
「……何かおかしいですか?」
「王様といいながら、泥を口にしろと命令するのが滑稽でな、しかも何やら死にそうな顔をしているのに、頭を一生懸命回して」
「王様としての態度をとって欲しいのですか?」
「今は、お前の騎士でしかない。これ以上に言葉が必要か?」
「……なら私の騎士らしく、言う事を聞いて貰いましょう」
「了解した我が主人よ」
それだけ言うと、獣は泥を口に含んで泥濘を駆けた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「やっとかえって、きたか、さあ──む?その足はどうした?」
獣に乗って帰ってきた私を見て、毛玉はほんの少しだけ心配そうな顔をした。
「……少々事故がありまして」
「……まあ、そういうこともあるか」
ものすごく軽い反応だった。
自分の姿形も変化するから、あまり不思議には思わないんだろう。
「おりゃ、おー硬い。この鱗なら、それなりで売れよう。余に幾らかくれんかの」
背後でアトラが、げしげしと獣の後ろ足を蹴っている。
「やらん」
「同盟者よ、くれんかの?」
「あげません、私の鱗じゃないんですから、本人が嫌がってたら駄目です」
「戦利品に……うむ……どうするかの」
「あとら、ちょうりのじゃまは、だめだ。むこうでまっていよう」
考え込むアトラを巨大化した毛玉がつまみあげて、連行していった。
「鱗程度、余の策略にかかれば容易いからのー!」
……早いところ、料理に取り掛かるとしよう。
「あの、獣さん、元に戻れないのですか?」
「……ああ……そうしようだがその前に……」
石ころを集めた囲いの中に泥を吐き、雷で点火した獣は、私を慎重に下ろした。
「そこまで簡単に砕けませんよ?丈夫っぽいですし、この足」
少し跳ねてみせる。
「……そうか」
獣は何とも言えないような顔をした。
「アレにも一応謝っておきます……あとで」
「そうするといい、それと、先程の事だが」
「……食事が準備できたら、皆にお話しします」
獣に話すだけで、真相の一部が見え隠れしたのだ。
できるのなら、私の仮定を否定する材料をくれるなら、それが一番なのだけれども。
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