第31話 仮説
「どうした?」
いや、迷うまでもない。
最悪な事になる前に。私は彼に話さなければならない。
いずれ発覚するのなら先に言ったほうが、遥かに誠実だし──駒として使うのならそうした方が確実だ。
「獣さん……あなたの知っている聖女は6年前に死んでしまっているのです。ですから……あなたの復讐の相手は……とっくに……」
「……ん?引き継いだが、使い物にならなくなったから捨てられたのではなかったのか?それも親族のあの聖女に」
「……もう一度説明した方が良さそうですね……」
◆◆◆◆◆◆◆◆
そして冷静に説明し直すと獣は、唖然とした。
「……では、度々俺の前に訪れていたあの"聖女"とは一体何者なのだ……!?」
「……それが私にも分からないのです。周りの人間は最初から居て当たり前のように振舞いますし、皆、彼女の味方ですし」
「俺はてっきり、魔術で若返ったものかと思っていたが……でもなければあまりに魔力の気配が似通って」
「老化を止める事すら出来ないのに、若返りなんて……出来るわけが………っ──」
一つ思い当たる事がある。
それがあれば容易に出来るかもしれない。
「《玩具修理者》……!!」
アレを使って取り替えてしまえば良いんだ。
なんなら、死体を偽装するなんて簡単だろう。
「《だるぷし、あどぅら、うる、ばあくる》」
「お、おい、どうした急に!」
「てぃ──」
現れた玩具修理者の極彩色の髪を掴む。
「私よりも若い存在がいれば、その肉体と入れ替えることは出来るか!?」
「……ぶひん、いれかえる……こと?かんたん、いしき、そのまま、あたらしくなる」
「………!!」
全てが線で繋がった気がした。
聖女が二百年以上も長生きしていた理由。
女児が生まれない、或いはすぐに死んだとされていた理由。
正体不明の存在が、さも存在して当然のように扱われている理由。
「そ、そんな……そんな嘘……」
違うと思いたい。違うはず、違う。違う。
あんなに優しかった祖母がそんなことをするわけがない……!
「てぃきり、り、それで、何を直す?どうしたい?」
「うるさい!そこらへんにいる異形から私の足を作ったらさっさと消えろ!この獣は使うなよ!」
「……わかった……」
「お、おい、いくら不気味でもそんな言い方は良くないのではないか?哀しそうだぞ?」
間抜けのような事を言うな。
「そんな奴はどうだって良いの!……暫く話しかけないで……ごめんなさい」
「……仰せのままに我が主人よ」
「……」
玩具修理者は、触手を伸ばして周囲の異形を分解し、私の足を作りながら、ブツブツと言っていたが、いつもの様に陽気に歌う事は無かった。
洞窟には雫が垂れる音が響いていた。
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