第33話 仮説-3
泥に灯った青白い炎は、やがて赤とオレンジの見慣れた色へと変わり、洞窟を暖かく照らしている。
火を囲んで食事をとりながら、私は今迄の経緯と疑念を説明した。
「せいじょ、とやらが、そぼかもしれない?」
私の肩に乗っている毛玉は、口の中の袋に肉を詰めてリスのように膨らませたまま、真剣な顔をしていた。
「……そうです。私を幽閉したのも、今まで女児を殺していたのも」
「のう?よいか?」
アトラが中身を吸った肉を、火の中へ捨てながら聞く。
「なんでしょうか?」
「余は最初に二百年前からここにいると言ったであろう?」
「……流石に別の聖女による《契約》だと考えていました」
「余は最初から祖母に対して復讐を遂げるのだと思っておったわ」
「……祖母とアリアが同一人物ということは否定しないのですか……?」
「何度か来ている聖女の見た目は違う事もあったし、そやつら皆、似た気配は感じたが……同一人物かと聞かれると、違うような気がしてくるの」
首を傾げるアトラ。
「……そうですか」
「われからもよいか?」
「どうぞ、わかる事なら何でも構いません」
「もし、わかがえることができるなら、おまえのそぼは、なぜ、としおいていたのだ?」
「……わかりません」
「そして、わかがえっているのなら、なぜおまえは、せいじょこうほとなった?」
「そう……でしょうね」
確かにその通りだった。
アリアがもし、六年前に若返った祖母だとするなら、無能な私を無理に聖女候補にする必要はない。
「……私を次代の聖女と言ってしまっていたからなのでは?」
「だとしても、ほうほうある。──いまのおまえにしたように、いくらでもな」
「いやいや、理由があったのかもしれんぞ?例えば、6年間待つ必要があったとかな」
アトラがその発言に割り込んだ。
「待つ必要?」
「何らかと《契約》してそうなったか、或いは、自らに《制約》をかけたか、それくらいしても不思議ではないだろう?」
いつのまにか回り込んだアトラは、耳元でそう囁く。
「それなら生きていても……」
その可能性もあり得るように思えた。
「あとら、それは、きりがない。"しろいからす"がいないことをしょうめいするために、すべての"くろいからす"をあつめようとすることに、かわりないぞ?このむすめを、ぜつぼうさせたいのか?」
アトラを諌める毛玉。
「あくまで均衡を保つ為の意見に過ぎないのだぞー?」
くつくつと笑うアトラは、他意はないと訂正する。
「いずれにせよ、けつろんをだすのには、はやい」
「俺からもいいか?」
骨を噛み砕いて、骨髄を啜っていた獣が問う。
「どうぞ」
「複雑なことは分からないが、親族が自らの娘や孫に対して、そのような行いをするとは思えない。これは論理ではなく感情の話だがな」
「……私もそうであってほしいです」
「だが、一方で主人は祖母が生きていて欲しいとも思っているのではないか?」
「──え?」
考えてもみなかった角度からの質問だった。
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