第24話 謁見

「ほろぼす、か。ずいぶんとおおきくでたものだ。しょうさんは?」


 寝ぼけた見た目、怠惰を極めたような姿に似合わず毛玉は冷静に聞き返してきた。


「皇帝と聖女を暗殺し、帝国を滅ぼします」


「たったふたりころせば、どうにかなるとでも?このよは、ものがたりのように、あしきくんしゅを、のぞけば、めでたしめでたし、というものではあるまい?」


 諭すような言葉、この獣は冷静な上に国というものを理解している。確かに最もな意見だけども、今回に限ってはそうではない。


「皇帝は聖女の魔術で回復する事を前提とした軍で、教会や諸侯を押さえつけています。彼らを殺せば、枢機卿は帝国を裏切り、そして諸侯によって帝国の諸都市は独立していくでしょう」


「くく、つごうのいいそんざいも、いたものだ、まるで"しょうぎ"だな、おうをおとせば、しょうりか、わかりやすい」


 この国が完全に分解することを意味している上に、その後他国に蚕食される可能性は高い、けど、このまま疲弊し続ける今の状態よりか遥かにましだ。


 それを望む者も必ずいるはず。


「神聖アルバ帝国、アレは神聖でなければ、アルバでもない、ましてや帝国ですらない。あれはただのエゴの塊です、これ以上腐敗が広がる前に滅ぼした方が健全です」


「だが、なぜおまえが、それをするひつようがある?そのような、くにならば、いずれ、がかいするであろう?そして、なんのとくがある?」


 まだ測るような目線と言葉、ここを違える訳にはいかない。大義なんて物はないのだから。


「私は復讐がしたいのです、私を貶めた存在全てを滅ぼしたいのです」


「ほう?ふくしゅうか……そのてあし……なるほど」


 毛玉は私の手足を見て納得したように呟く。


「手足だけではありません、私の名誉を貶めたのです」


「──では、ていこくにすまうものども、つみのないものも、ころすというのか?」


「それは」


「……くにがぶんかいされ、たこくに、しんりゃくされれば、むらやまちは、りゃくだつされるだろう、そしておまえとはかんけいのない、ものどもも、ちをながし、いのちを落とす。こんらんは、にくしみと、えんさをうむ。くにをほろぼす、というのはそういうことだ」


「……戦って神の国へ行けるなら本望でしょう」


「それが、おまえとおなじようなものをうみだしたとしてもか?おなじおもいを、たしゃにあじあわせるのか?」


「だとしても私は」


「──そして、それを、みずからのてをよごしてまでやるいぎはなんだ?なんのとくがある?」


「──っ」


 言葉が続かない。論理の上では私が毛玉を駒にするに足る理由が導けない。


「……よい、かんがえなおしてでなおせ、こじまのなかならば、すきにしてよい。くうふくならそこらにある、ささげものをくうがよい、われはねる、かんがえがせいりできたのなら、もういちどこい」


 そうして毛玉はまた寝転がって寝息を立て始めた。


「……はい……そうします……」


「……仕方ない。出直すぞ、主人よ」


 獣は硬直した私の手を取った。


「まあ、気を落とすな同盟者よ、話を聞かないと言ったわけではない、少し考えようではないか?」


 蜘蛛の異形は何でもないようにそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る