第14話 修理
「おはようございます!今日も虫さんですよ!」
アリアに頭を掴まれて目を覚ました。
山程の毒虫がひしめく深皿が、顔の前に置かれる。
「………」
もうどうという事はない。むしろ好都合だった。
「食べさせてあげますね!あーん」
匙に掬われる有象無象の虫達は、無理やり開けられた私の口へ、なだれ込んでくる。
「っ……げほっ……」
牢の奥へ向けて吐き出す。
「あらあら、そんなに嫌なのですか?何時も吐いてばかりですね?」
最近、アリアの背後には、常に付いて回る黒いローブの何者かが居た。
殺すのに邪魔になるのは間違いない。
「……?どこを見て……ああ、なるほど」
「……護衛……前は居なかったのに。私がそんなに恐ろしい?」
「……見えるようになったのですか……まあ、意味なんてないでしょうけど」
そう言ってまた、虫を食わせようとするアリア。
今だ。
左目の瞼を開ける。閉じ込められていたムカデが餌を見つけて飛び出す。
「ひゃっ」
匙を躱して、アリアの喉元へ食らいつく。
「--へ?」
渾身の力で喉の肉を噛み千切る。
「──ッッッ!!」
「どうだアリアぁ?絶対に反撃できないと思っていただろう?ハハハ!死ね!詠唱が出来なければ魔術なぞ使えないだろぉ!!死んでしまえ!アハッ!アハハハハハッ!」
倒れたアリアに牢に溜まった毒虫が群がる。
舌の肥えた虫達は新しい餌を欲していたのだろう。
「ひゅー……ひゅー……」
引き裂いたアリアの喉からは声にならない空気の抜ける音が鳴っていた。
後ろに立った黒いローブの者は動かなかった。
「その意識あるまま、虫に食われて死ね」
私は復讐を遂げた、そのつもりだったのに。
「《だるぷし、あどぅら、うる、ばあくる》」
声にならない筈のアリアの口から詠唱が漏れ出た。
「てぃきり、り、何を直す?」
背後にいた黒いローブの者はステンドグラスのような極彩色の髪を垂らし、アリアを覗き込んだ。
「《私を、元の通りに治せ!》」
アリアは黒い者に、私の目の前でバラバラにされた。
喉を治すだけなら必要ないであろうに、アリアの肉体は全て解体されていく。
表皮が綺麗に剥がされ、中の筋肉がそれぞれの部位ごとに取り出され、私の血溜まりの上に肉片や臓器が散らばる。しまいには骨も綺麗に外されて、完全に解体された。紫色の瞳の目玉が顔の前に転がってくる。
「な、何なんだお前は……!」
「てぃけり、り、ざいりょう、ざいりょう」
「やめろっ!やめろおぉぉあぁぁぁぁ!!」
そう言って私の身体に触手を伸ばし、私から肉を剥ぎ取ると、アリアの残骸に継ぎ足して、ふたたび組み立てていった。
「ないわーず、やんめぇん、ないわーず、ろぉばぁ、なっすぃんく、さてぃーすふぁい、みーばぁとうゎい」
冗談みたいな光景だった。何やらブツブツと言いながら、黒い者はアリアを元通り"組み立て"てしまったのだ。
「……ふぅ、何をみてるんですかぁ?あぁ……《玩具修理者ちゃん》ですか。この子の力は《誰かに呪文を教わった人しか》つかえませんよ?残念でしたぁ~。ん?あれ、なんか痩せました?」
「あんたの"部品"に使われたんだよ……クソ、そんなのがアリなら、殺せやしないじゃない……」
「残念でしたぁ!偽聖女の貴方ごときに殺せるわけがないでしょう?ふふふっ!今日はこのくらいで失礼しますね!」
アリアは足元に這っていたムカデを踏み潰すと牢を出ていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
手詰まりになってしまった、いくら致命傷を与えてもこれでは意味がない。
だけど万策尽きたわけではない、私は新しい手段を発見した、いや、思い出した。
それが人に使えるとは全く思っていなかったけど。
「《だるぷし、あどぅら、うる、ばあくる》」
唱えると黒い服の者はあっさりと現れた。
「てぃきり、り、何を直す?どうしたい?」
こればかりは、幼い頃の過ちに感謝しなければならないだろう。
「私を────」
でなければ、きっとあの詠唱なんて聞き取れず、この牢屋から出る事なんて叶わなかっただろうから。
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