第9話 断罪


「何を言ってるの……?ねえ、アル……なんで……」


「可哀想に!こんな姉の為に死に、お話すら聞いてもらえないなんて!」


 蹲るアルサメナの肩に手を掛けて、大袈裟に言うアリア。


「私はっ……!」


「この者は、教会の事業を捻じ曲げ、救貧院の入居者へ過酷な労働を強いて、私腹を肥やしていたのです!」


 過酷な労働……?何故?領地の収入で、救貧院も孤児院も、殆ど働かなくて済むようにした筈なのに……!


「なんと、彼は、その救貧院に収容されていたのです!彼の傷も、救貧院で付けられたのでしょう!自害するだけで、このような傷を負う事はありません!」


「成る程!通りで痛ましい訳だ!」


「実の兄弟を!?それが人のする事か!」


 飛んで来る石の雨は、激しさを増した。


「こちらに救貧院、孤児院から解放した方々をお連れしました!」


 みすぼらしい服装の人々が連れて来られた。


「……偽聖女……貴様の所為で……碌に寝る事も……」


「……地獄へ……落ちろ!」


 老人たちが、力なく投げる石飛礫。彼らの投げるそれは、届く事なく落ちて転がる。


 届きやしないのに、それでも投げ続ける。


「なんと痛ましい!我らが代わりに投げて差し上げよう!」


 涙する人々が、彼らの手を握り、代わりに私へ投げつける。


 別に石が当たらなくても、それは"届いている"のに。


 もう十分痛いのに。


「……」


 痩せ細った子供達が、呆然としているのが見えた、きっと孤児院の子供達なんだろう。


「君達を苦しめたのは、あいつだ!さあ、みんなで投げよう!罪を認めるまで!」


 いくら送っても、孤児院や救貧院から、何の便りも無かった理由が、漸く分かった。


 私の寄付なんて、教会の腐敗に吸い込まれただけだったんだ。



 また、視界が潰れた。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「《この者の傷を癒したまえ!》」


「ぉぉぉぉぉぉ!」


 何度も、何度も、戻される、そこら中に憎悪の目が見える。


「さて、自らの罪を認める気になりましたか?」


「………」


 全て否定された。


 私の人生は、無意味だった。


 私の行動は、無意味だった。


「……無気力に、なられちゃあ困りますよ」


「……グ」


 アルサメナの髪を掴んで持ち上げるアリア。


「この哀れな弟君の鎮魂を行いましょう!」


「やめ……て、やめ……」


「《火よ!爆ぜよ!》」


 首から上は爆ぜ、肉片が飛び散る、残った身体は燃えて、酷く焦げた匂いがした。


「ぁぁぁあああ!」


「ぉぉぉぉぉぉ!」


 私の声は歓声にかき消される。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「アリアァ!!」


 私の中で何かがプツンと切れてしまった。


「おや?なんでしょう?どうかしました?」


「決闘だ!神判にはこれほど適したものも無いだろう!お前を殺して私の正しさを証明する!降ろせ!決闘だ!!」


 もう誰一人として私の味方が生きていないなら、どうなったって構わない、あまつさえ、このような仕打ちを受けて憤らないほうがおかしい。


「へぇ、そんな気概があるのですね、よろしい!それでは決闘による再神判を行います!我らゴールの民が最も尊ぶ手段ならば!皆様も異論はありませんよね!」


「ぉぉぉおおおお!!」


 狂喜の歓声が上がる。私達ゴール民族はなんにせよ、血を見ないことには白黒をつけられないのだ。ならばその通りにしてやるしかない。


 鍛錬の為の時間なら幾らでもあったのだから。

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