第6話 王の秘密と、その決断
この騒ぎが、穏便に、そして内密に片づけられるはずがない。
その日のうちに、ホレイントは兄王の玉座と、その傍らの王妃の前にひざまずいていた。
いつもなら人払いするところだが、この時ばかりは群臣が顔を連ねている。
ホレイントは一気に言い切った。良くて追放、死刑になっても仕方がない。
「ご存知の通り、私は男が王でない限り入れない後宮に、足を踏み入れました。しかし、やましいことは一切ございません」
グレムジュもまた、自信たっぷりに兄王を促した。
「さあ、罰をお下しください」
だが、兄王はいつもの鷹揚さで答えた。
「それを認めることは、王の無能さを認めるということではないか?」
唖然とするグレムジュに、兄王は説いて聞かせる。
「魚を置いた皿を放り出しておきながら、それを食い荒らした猫を殺せとでもいうのか?」
王弟を泥棒猫呼ばわりする露骨さに、並み居る臣下たちは顔を見合わせた。
ホレイントは懐から、小さな陶器の香炉を取り出してみせる。
「これは兄上の持ち物でしょうか?」
分からないはずはない。あの立ち回りの後、寝所から探し出したものだ。
群臣の1人に香炉を運ばせた国王エインファルデュールは、質問を質問で返した。
「お前はそれがどこにあったか、なぜ知っているのだ?」
答えれば、王妃の寝所に忍び入ったということになる。そこで何もなかったと言っても、信用されまい。
重苦しい沈黙が、その場を覆いつくした。
だが、それを破った者があった。
「茶番はもうたくさん!」
グレムジュが、長い金髪の中からあの短剣を取り出した。
その切っ先はエインファルデュール王に突きつけられている。
玉座に駆け寄ろうとしたホレイントと衛兵たちは、一歩も動くことができない。 自ら王妃であることを捨てたグレムジュは、怨念に満ちた声で呻くように言った。
「先王グレインデュールが何をしたか、お前たちは分かっているのか?」
ホレイントは腰の剣に手をかけたまま、穏やかに告げた。
「私たちは、この国を迷信から解き放ち、人の手に取り戻したつもりだ。不満があれば聞こう」
グレムジュは鼻で笑った。
「迷信に囚われていたのはお前たちだ。この国を追われて野垂れ死んだ、私の母たちが何をしたというのだ」
そこでホレイントは呻いた。
「お前、まさか魔女の……」
グレムジュは、それこそ悪魔のような形相で叫んだ。
「ただ占いやまじないで人の悩みや苦しみを救ってきただけの者たちを、なぜこの国から追い出した?」
そこで口を開いたのは、国王エインファルデュールだった。
「もういい。お前を罪に問うことはしない」
「お前たちの情けなどいらない!」
グレムジュは叫ぶなり、短剣の切っ先を自分の喉元に向ける。
それが深く突き刺されるかと思われた時だった。
「待て!」
制止の声と共に、何かが壊れる音がした。
立ち上がった国王が、まだ手に持っていた陶器の香炉を叩き割ったのだ。
「今より裁きを下す! それでよかろう!」
偉大なるグレインデュールの子、国王エインファルデュールは、その決断を厳かに言い渡した。
「政(まつりごと)を誤った国王エインファルデュールと王妃グレムジュを、この国から追放する!」
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