第4話 目には目を、セクハラにはセクハラを
次の朝、ホレイントは人払いの上で、兄王の玉座の前に立っていた。
「お戯れもたいがいになさってください」
ホレイントがそう言うと傍らのグレムジュは微笑して、兄の耳にまた何か囁く。
兄王は鷹揚に告げた。
「命を張った戯れも、男の嗜みというものだ」
「どんな戯れにも、勝ち負けがあれば互いの納得が欠かせますまい」
笑うグレムジュに耳元で囁かれた兄王が、苦笑いしながら約束する。
「よかろう。望みを申せ」
ホレイントは咳払い一つすると、おもむろに告げた。
「私の答えを、その場で確かめとう存じます。お互い、異論のないように」
グレムジュに耳打ちされた国王は、弟を見据えて言った。
「自分が何を言っておるのか、分かっていような?」
「後宮の女性が兄上のものでも、下着くらいは弟に見せてくださってもよろしいのでは?」
おどけて答えると、不敵に笑う王妃の命令で、城中の女官が玉座の前を覆いつくした。
ホレイントは全員を見渡して告げる。
「お尋ねの数は、兄上の生まれた日と同じでございます」
王が何か言う前に、王妃グレムジュは唇を歪めた。
「指一本触れられぬとはおぬしも認めたこと。いかにして、下着に隠された数を確かめると?」
ホレイントは毅然として顔を上げると、女官たちを見渡す。
「よく、私を見てください。私の目を!」
女官たちの瞳は、次第に潤んでいった。
「だから嫌だったんだ……」
自室のテーブルに放り出された夕食を前に、ホレイントはため息をつく。
その前に現れたのは、銀色の髪を持つドラウミュルだった。
いかにも街娼といったふうの、長いコートを羽織っている。
「よくやったね」
返事もしないホレイントをなだめるように、ドラウミュルは、傍らで囁いた。
「これ、もらっていい?」
そう言いながら、グラスに注いだワインを一気に飲み干した。
ホレイントは、それを放っておいてベッドで横になる。
ドラウミュルは座ってさっさと食事にかかった。
「腹減ってたんだ」
それに背を向けて転がったホレイントは、不機嫌に尋ねた。
「どうやって入ってきた」
「ホレイント様のお招きでって門番に言ったら」
その答えに、ホレイントは身体を丸くする。
「お前があんなことしなかったら」
眼力の威力で、数十人の女官がホレイントの前で裸身を晒したのだった。
「でも、あれで勝ったんだろ?」
ドラウミュルは悪びれた様子もない。
確かに、兄の誕生日を縫い付けた下着は1枚しかなかった。
大笑いしながら兄が去った後には、ホレイントただ1人が残されたのだった。
「おかげで、私はすっかり好色漢にされてしまった」
「それでいいのさ、余り堅いと味方が減るよ」
ホレイントは、ベッドの上に跳ね起きた。
「味方なんかいなくたっていい」
食べるだけ食べて、ドラウミュルは眠たげな顔で椅子にもたれかった。
「格好つけるなよ、実力もないくせに」
そう言われても仕方のない、部屋住みの身分である。
「実力がなくたって、あの女さえ押さえれば」
世継ぎが生まれる前なら、まだそれは可能だ。
だが、ドラウミュルは更に痛いところを突いてきた。
「どうやって?」
下着に隠された数字は当てたが、当面の危機を凌いだに過ぎない。
「証拠さえあれば……あの女が兄上を操ってるっていう」
宮女狩りをグレムジュが謀ったと明かせれば、追放も処刑もできる。
そこで、ドラウミュルはあっさり答えた。
「媚薬さ……それも、魔法で調合した」
「魔法だと!」
ホレイントの頭に血が上った。
「どこにある!」
思わず掴みかかると、椅子の背もたれには、コートが脱ぎ捨ててある。
背後のベッドから、ドラウミュルの声がした。
「自分で探すんだね、その力を使って……」
もう、こんな眼力は使えない。
「女とは顔を合わせない!」
「じゃあ、僕が取ってきてやろうか?」
「お前の力は借りない!」
振り向きもしないで、コートを投げつける。
楽しげな笑い声と共に、冬の夜風が吹き付けてきた。
「無理しない、男の子なんだから!」
もう一声、真っ向から怒鳴りつけてやろうとした。
だが、そこには開いた窓とベッドがあるばかりだった。
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