第2話 半裸のちっぱい小悪魔少女と契約のキス
その晩のことだった。
ホレイントは城中にある自室のベッドに横たわって、高い天井を眺めていた。
「さて……どうしたものか」
日が昇ると共に行動を起こさねばならない。
目を閉じてうとうととまどろんでから、どれほど経ったろうか。
「……誰だ?」
銀色の髪の少年が、裸のまま隣で寝息を立てている。
「……お前は、いったい」
うっすらと目を開けた少年は、微笑と共に囁いた。
「ありがたい思し召し、確かに頂戴いたしました」
ホレイントは、その場で跳ね起きた。
男が男と交われば、問答無用で火焙りにされる。
「冗談を言うな」
窓から差し込む月の光の中で、少年も身体を起こす。
「もちろん、冗談さ」
「だったら、まずその……」
シーツがはだけて、大きくはないがふっくらとした胸が月の光に照らされた。
いや、間違いなく、年若い娘が胸を隠していた。
「お礼に添い寝してあげたんだけどな、ボク」
「何の?」
「無理やりお城に入れられるの、助けてくれたろ?」
宮女として城の門前に並んでいたところを、狩りの帰りにたまたま見かけたのである。付き添いの男と比べると、親子というには美しすぎた。
人買いに売られた娘だろうと決めつけてやると、男のほうはその場で逃げ去り、娘のほうもどこかへ消えていたのだった。
「小さい頃にふた親ともなくして、旅芸人の一座で軽業なんかやっててさ、そこも商売畳んじゃって困ってたところにいい働き口があるって声かけられて……」
兄が宮女を駆り集め始めてから、よく聞く話だった。
「どこから来たか知らんが、帰れ」
一喝するつもりだったが、そこへ、少女の顔がすっと近づく。
「……!」
唇が柔らかい唇で塞がれた。
呆然とするホレイントの前で、少女は唇を深紅の下でぺろりと舐めて、微かに笑った。
「これで、契約完了。ボクにしてくれた分だけ、キミにもしてあげる」
ホレイントは眉を寄せた。
「何の……?」
「魅了の能力」
ホレイントの背中を、恐怖と怒りが稲妻となって駆け抜けた。
「魔術か?」
剣を手に取ろうと思ったが、手元にはない。
少女はホレイントに向き直った。
「キミが気づかないで持っている力を、表に出すだけ……目を合わせただけで、どんな女もキミに夢中」
兄ならともかく、自分にはいちばん必要ない能力である。
「そのようなことは……」
うろたえるところへ、少女はシーツで身体を隠しながら立ち上がる。
「使わないと、その力が暴れ出して、とんでもないことになるからね」
そう言うなり、身体に巻き付けたシーツを翻して、開けた窓から飛び降りた。
吹きこんでくる冷たい風に向かって、ホレイントは叫んだ。
「待て! 契約というなら名を……」
「ドラウミュル」
名前だけを残して、少女は姿を消した。
窓から顔を出して見下ろすと、そこには、真っ黒な闇があるばかりだった。
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