事件4

「あの、もうひとつ質問いいですか?」


「なんでしょう?」


「さっき言っていた、密室と到底言えないというのはなぜです?」


「それは、実物を見てないとなんとも言えないですが…回してかけるタイプであれば下敷き一つで開きますからね」


「なるほど、でも鍵を掛ける時は?」


「掛けるける時は下敷きすら要らないものが多いですが、ちょっと複雑なものでも糸の様なものを使えば密室にできます」


「糸の様なものを持ち歩いてるやつが犯人という事ですね?」


「たしかに、そうとも言えますがそんな準備しなくても糸の様なものを常に持ち歩いている人もいますよ」


「へ?」


「とくに女性は」


「.......あ、あー髪、か?」


「髪の毛は意外と強いので糸の代用になります。それに間違って落としたりして拾われても、証拠にはなりにくいですね」


「そうか、それで密室とは言い難いのか」


俺はお嬢様の見事なストレートヘアを見ながら感嘆した。


「もう1杯飲みます?」


気がつくと飲んでいた紅茶のコップがカラになっていた。


「え?あ、いえ、大丈夫です」


俺は慌てて言った。


「それと.......」


お嬢様は、少しこちらを窺うような目をした。


「な.......なんでしょう?」


「お嬢様という呼び方、やめて欲しいんですけど」


「はい?」


俺は、そんな事か、と思い胸をなで下した。


なにか機嫌を損ねて、やっぱり雇わないなんて言われなくて良かった。


なぜなら、俺は当初、依頼を受けた時より随分とやる気になっていたからだ。


「ではなんとお呼びすれば良いでしょう?」


「如鏡で良いです」


「お嬢様!ダメですよそんな!」


堪らずバアヤが口を挟んだ。


「そんな呼び方を許したら、この男が勘違いします!」


こ、この男って.......。


「良いじゃない、自宅なら兎も角、大衆の面前でお嬢様と呼ばれる方が苦痛だわ」


「そう言われましても.......」


「あの.......じゃあ、如鏡さんでは?」


俺はおそるおそる言ってみた。


バアヤが睨んでいる。


「まぁ、それでいいわ、当面」


なんとか折衷案が通った所でティータイムは終わりを告げた。

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