事件1

俺は桜庭さんに睨まれて、目を泳がせたついでに室内の調度品などを観察した。


どれもオシャレ、というか高価そうなものばかりで俺の様なド庶民が迂闊うかつに触ることを躊躇ためらわせるに充分な輝きを放っていた。


プルルルルルル


その時、俺の居心地の悪さを察してかどうかはしらないが、救いの様な着信音が鳴った。


「すみません、出ていいですか?」


「もちろん、どうぞ」


お嬢様はにこやかに言った。


俺は軽く会釈すると電話に出る。


「はい、裏山です」


「どうだった?」


この声は、俺にボディガードの仕事を回してくれた張本人で間違いない。


しかし、相変わらず単刀直入というか、主語のない質問をするやつだ。


しかし、昔から形式とか手順を嫌い、目的に最短で近づこうとするこいつの性格は嫌いではない。


「刑事か、たぶん合格.......したとおもう」


「たぶん、てなんだよ?」


「いや、禁煙を続けられたら採用らしいんだ」


「ん?お前禁煙してたの?.......ていうか、禁煙続けるかどうかなんて、お前次第じゃないのか?採用だろ?」


「ま、まぁ、そうなんだが.......」


「それより、お嬢様は?」


「え?そりゃ居るけどなんだ?」


「代わって貰えないか?」


「いいけども」


俺はお嬢様にお伺いを立てる。


「あの、けい.......いや池照のやつが、なにやらお嬢様にお話があるみたいなんですが?」


「あら、わたしに?」


「はい.......嫌なら切りますけど?」


「いえ、全く嫌ではないですよ」


「あら、池照さんて、あのモデルみたいな刑事さん?」


桜庭彩が急に声のトーンを高くして会話に割り込んで来たかと思うと目を輝かせていた。


「まぁ、そうね、確かにモデルに居ても不思議ではないわね」


ん?なんだろ、この気持ちは?


どうせ俺は普通だよ!


俺は、しょうもない嫉妬心を押さえ込んで携帯をお嬢様に渡そうとしたが、途中でバアヤに奪われた。


バアヤは俺の携帯を特殊な布で拭いてお嬢様に渡した。


俺は口の端を上げながら不快感を出さない様にぎこちない笑顔を作った。

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