焼きカレーパンと苺サンド

 僕はご近所のパン屋さんに入る。


 ここらじゃ老舗のおじいさんおばあさんが孫たちとやっているパン屋さん。

 小さなお店。蓮沼ベーカリーと書かれた軒先の茶色い看板。


 焼きたてパンの芳ばしい香り。


 美味しそうなパンの数々。


 土日の朝、コーヒーか紅茶かコーンスープが一杯無料で飲めるからか、店の横の飲食スペースは早くから常連さんでごった返していた。


 僕はするりと混雑を抜け、目的のパンを買った。


 カナコが好きなはずのチーズケーキ風蒸しパン。

 カナコが褒め称え、付き合ってた時は大好きだった焼きカレーパン。

 カナコの好きだったクリームたっぷり苺サンドウィッチ。

 ついでに僕が明日食べるためのクロワッサンとフランスパンも買い込んだ。


「サービスのドリンクはいかがでしょうか?」

「今日はいらないです。ありがとうございます」


 そう、僕のうちでカナコが待っているから。


「あっ……。追加で野菜スープを、テイクアウトで二つ下さい」


 元カノのカナコだけど、僕のうちで僕の帰りを待っている。


 誰かが家で待っていてくれるって、嬉しいもんだな。


 久しぶりの感覚だった。


 僕はホカホカ出来たてスープと焼きたてパンの香りに包まれ、足取りも軽く家路を急いだ。





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