Loop3 5/18(水) 09:22【札森純平:3】
2022年 5/18 (水) 09:22『札森純平宅』
永遠とも思える深淵の中、鋭い光が目蓋を突き刺す様に感じた。一瞬の閃光、それはジュンペイを目覚めさせるには十分だった。
「無事で何よりね」
目の前には、ふわりとしたロングヘアの彼女……の中にいる無愛想なやつ。
「ウラサカ——?」
「悪いわね、目の前にいるのが家族じゃなくて」
体には、まるでミイラのように包帯が巻き付けてあった。痛みは無い、だが自分の身に何が起きたかは察しがつく。
「負けたのか……僕は……」
鈍い体を起こし窓を覗く。そこには無惨な姿になった街、そしてその真ん中に佇む巨大な怪獣、ダイダロの姿がよく見えた。
同日 09:26『札森純平宅』
あの直後、ウラサカに拾われたジュンペイは見るも無惨な姿だったらしい。全身大火傷、さらに体の一部は炭化していたという。それでも生きていたのは、やはり超人の力のおかげなのだろう。
「……何処に行く気?」
包帯を外しハンガーに手を掛けるジュンペイを、ウラサカが冷ややかな目で見つめる。
「あなたでは勝てないわ」
その言葉にジュンペイの右手がピタリと止まった。
「……僕はまだ生きている」
「……いいかしらジュンペイ? これはあなたの実力どうこうの話ではない、相性の問題よ。超人マイティは、生物としてのじゃんけんですでに敗北しているの」
油甲怪獣ダイダロ。怪獣の中でも最大級の質量と固さを持つとウラサカは言う。事実あの甲殻の前に、マイティの超感覚は全くの意味をなさなかった。
「街を出るわよ、ジュンペイ。今はそれが最善よ」
敗走。最も正しいその選択は、最も受け入れがたい現実だった。
ダイダロは体内にダイナモの様な臓器を持っている。すなわち発電。ダイダロは24時間電気を作り、それを背中にある甲羅との間に貯めているのだ。戦闘時にはその電気を補助動力として活動し、最後には吐き出す。プラズマ熱戦。凄まじい射程と威力持つ指向性電撃。その代償に、ダイダロは発射後エネルギー不足に陥り休眠を必要とする。
金曜日。それが朝霧の人々に残されたタイムリミットだった。
同日 10:19『天羽沢商店街』
ダイダロが動き出すまであと二日。政府がダイダロの体温の上昇から割り出し発表したその数字は、人々に混乱をもたらした。朝霧の人口はおよそ12万、それを全員避難させるのには手段も場所も当然足りない。
「とりあえず若者から運び出しているから、それに乗るわよ」
ウラサカ曰く、ダイダロの熱線で道路も線路もめちゃくちゃに壊されたらしい。現在、使える道は空路しかなく、ひっきりなしに空をヘリコプターが飛んでいた。
「……浮かない顔ね」
ジュンペイの湿った顔を見て、そりゃそうかとウラサカは笑った。
「そのうち慣れるわ」
その言葉にジュンペイの足がピタリと止まる。
「……ウラサカは、何のために戦うの?」
「……? 何って?」
「何で、そんなに強くなれるのかなって……」
その問いに、ウラサカは、振り向くことなくこう答えた。
「死にたくないの」
「……え?」
「どうしても死にたくない。私には何もないから。それが私の戦う理由よ」
それ以上聞くな。彼女の背中がそう告げている。
「ジュンペイ、貴方はなんで戦うの?」
「……みんなを守りたい、死なせたくない。死んだ人は戻ってこないから」
「貴方は立派ね」
沈黙。もしくは微妙な間。倒壊した家屋の隙間をぬるい風が通り過ぎていった。
「勝てないわよ」
「それでも戦いたい」
「私は死にたくないの」
「君も守ってみせる」
するとウラサカは、ぷふりと軽い息を漏らし振り返る。
「そこまで言うなら安心ね。せいぜい私を守ってみなさい」
半笑いだった。これで私もお姫様の仲間入りかしら? その言葉で馬鹿にされているとようやく分かった。
「ありがとう、ウラサカ」
それでもジュンペイが微笑むと、ウラサカはつまらなさそうにこう言うのだ。
「もうちょっとのりなさいよ、バカ」
彼女は、呆れ混じりにそう笑った。
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