Loop3 5/16(月) 16:02【藤間輝】
少し時間は巻き戻り——
2022年 5/16 (月) 16:02『天羽沢商店街』
スーパーマンにとってこの商店街はまさに楽園だろう。コスチュームチェンジをするための電話ボックスに困らないからだ。
「この街もお年寄りは多いからね。携帯電話を持ってない人もいるだろうし、何より緊急時に役に立つ」
例えば君が喧嘩した時とか。車椅子の少女は、いたずらにそう微笑む。
「余計なお世話だよ」
「部活には入らないのかい? 腕が有り余っているのなら私が紹介を——」
「いらねーって。勉強する時間がなくなるだろ?」
嘘だった。男は勉強することが大嫌いである。勉強するぐらいなら学校を止めた方がいいと思うほど。
「ちなみに今日の小テスト、出来映えはどうだったかい?」
「満点」
「……ふふっ、今週も満点か。やっぱりアキラは賢いな」
「ちょ、トモエ姉ちゃん信じてないだろ!? ほんとだって! 待ってろ、今証拠を……ってプリントが多すぎて分かんねぇ!? どこ行きやがった!?」
「分かってるよ。今週もご褒美にコロッケだね」
「信じてくれよぉ!」
知ってるか? この地球はもうダメなんだってさ。地球は暑くなり続けるし、戦争はなくならない。けどやっぱりどうでもいいや。世界が良くなろうが悪くなろうが俺みたいな奴はどうせろくなことにならない。
だけどトモエ姉ちゃんは、トモエ姉ちゃんだけは守ってやる。姉ちゃんが幸せになるまで俺が代わりの足になる。
あとは姉ちゃんをこんな目に遭わせた神様をぶん殴れれば、それで満足かなあ?
同日 16:20『薪精肉店』
その二人は、商店街で商いをするものなら誰もが知っていた。すらりとしたモデル体型であろう、ロングポニーテールが揺れる車椅子の少女。そして目付きが鋭い、少し物足りない身長の少年だ。
「トモエちゃんいつもありがとうね。こっちが肉じゃがコロッケで、こっちがかぼちゃコロッケだから」
どうしてお肉屋さんのコロッケは、こんなにも旨いのだろうか? いいお肉を使ってるから? 実際は、コロッケにそこまで肉は入っていないのに。
「愛情をこめているからだよ」
トモエはいつもの様にそう答える。トモエ姉ちゃんがそういうのなら、きっとそういうことなのだろう。多分素っ気ないコーンフレークも、好きな人が愛情こめて混ぜてくれたらこの上ないごちそうになるのだ。
「愛情って美味しいんだなぁ……」
その言葉に、肉屋のおばちゃんが吹き出した。トモエはいつもの様にニコニコと微笑んでいる。アキラはばつが悪くなってコロッケを喉の奥に流し込んだ。
そして——
同日 16:24『天羽沢商店街』
「あ、流れ星!」
そんな子供の声がどこからか聞こえた気がした。人々はそれにつられて空を見上げる。確かにそこには大きな大きな流星が、尾を引いて空を真っ二つに切り裂いていた。
その時アキラは目をつぶり、無心で願っていた。トモエ姉ちゃんの足が治りますように、と。よくあるおまじないだ。幸いにもその流星はずっと空に輝いていたため、簡単に三回唱えることができた。そして唱え終わり、目蓋を開こうとした時。
「危ない!」
トモエの叫び声が聞こえると同時に、アキラの背中に強い衝撃が走った。意味も分からず、力学に任せて倒れるアキラ。次の瞬間起き上がる間もなく、膨れ上がるような空気の波がアキラの背中を掠めた。
顔を上げると、そこにはアキラの知っている商店街は無かった。窓ガラスは粉々に割れ、植木やのぼり、公衆電話が辺りに突き刺さっていた。
「姉ちゃん——!?」
そしてトモエの姿もなかった。見えるのは無惨な姿になった人々、そして振り返ると——
「なんなんだよ……? どうなってんだよ——!」
そこには、肥大化した四肢を持つ亀のような化け物——怪獣が、空に向かって雄叫びを上げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます