Loop2 5/17(火) 15:37【井戸野定子】
ジュンペイに課せられた最初の使命は人探しだ。この学校にいると言うあと六人の超人。それを見つけ出して、ウラサカに目覚めさせる。ちょうどジュンペイが覚醒したときと同じように、指でっぽうで撃ち抜くのだろう。
そこで問題なのは、その眠れる超人の情報がほとんど無いことだ。唯一分かっている事。それは前のジュンペイと同じように、今までのループの情報を少し覚えている。たったそれだけだった——
2022年 5/17 (火) 15:37『瀬戸ノ夢学園 教室』
「うぅ……どうしろって言うんだよ……」
6/4000、その数字がジュンペイの肩にずしりとのし掛かる。確かに不可能な数字ではない。一人当たりの確率は、なんと0.15%もある。科学雑誌によく載っている、砂漠から一粒の砂を見つける難しさとか、太平洋に浮かぶスイカがぶつかる確率とかに比べると遥かに現実的な数字だ。
「やるしかないんだろうなぁ……」
要は心の問題だ、困難な事に挑む強い心。それこそヒーローの様に、絶対に折れない心が求められていた。
「おいおいジュンペイひでぇ顔だな? どうしたんだよ?」
とりあえず近いところからだ。ジュンペイはさっそく行動に移す。
「ミゾグチ君……最近未来が見えたりしない?」
「はあ? お前頭でも打ったか?」
要は心の問題だった。例えるなら、全身コスチュームを着て街中に立つヒーローの様に強い心。羞恥心、ジュンペイはそれを捨てられる気がしなかった。
同日 16:03『オカルト研究部 部室』
「やっぱオカルトの話はオカケンだろ?」
ジュンペイはミゾグチに連れられその扉を開いてしまった。
カーテンが締め切られたうすぐらい部屋に、怪しく灯る白熱電球。壁に貼り付けられた見たこともない謎の文字。そしてジュンペイに差し出された青い茶。オカルト研究部。噂通りに怪しすぎる部活だった。
「ねえミゾグチ君、ここ本当に大丈夫なの? ていうか僕のオカルト嫌い知ってるよね?」
「いや、頭打った奴には頭打った奴らが適任だろ。それとも保健室に連れていく方がよかったか?」
ミゾグチは当たり前の様に青い茶をすする。味を聞くと緑茶だと言う。そんな馬鹿なとジュンペイも茶を飲むと、強いハーブの匂いが鼻を抜けた。意外と美味しい。
「しっかし未来が見えるねぇ……そんなん出来るわけ無いだろ?」
「——そうとは限らないわっ!」
その時真っ黒のカーテンの向こうから、目が隠れるほど前髪を伸ばした女性がミゾグチを睨んだ。明らかにホラー映画の住人。ジュンペイはひっくり返りそうになる思いだったが、横にいるミゾグチは気さくに彼女の名前を呼ぶ。
「うっすサダコ先輩。突然押し掛けてすみませんね」
「構わないわっ、我々オカルト研究部はいつでも廃部の危機に晒されている。少しでも良いイメージが広がるなら大歓迎よっ」
すみません無理です。ジュンペイは彼女のビジュアルに恐怖しか抱かなかった。
「でっ、そちらが予知能力者を探しているジュンペイ君ねっ?」
「あっはい。お世話になります」
「頭おかしくなってるんで、ガツンと言ってやってください」
「ちょ、ミゾグチ君!」
この人にガツンと言われたら間違いなく夢に出てくる確信がある。
「切っ掛けは知らないけど、未知への興味は良いことよっ。ではさっそく私の占いで……」
うわっ、出たよ占い。ジュンペイは白々しい目で水晶玉を眺める。
「……とりあえず一つ言っておくわ」
「な、なんでしょうか……?」
「貴方、今週の運勢最悪よ」
「知ってます」
時間は過ぎていく。サダコはあらゆる角度で水晶玉を見つめた。その間、二人は仮面を着けた部員が入れるお茶をただただすするだけだ。備え付けのレモン果汁を入れ、色が変わるお茶のグラデーションを楽しんでいた頃、サダコの手が止まった。
「見えたっ! 予言者の実態はラブソングと共に有りと出ているわっ!」
「……つまり?」
「お昼の放送で、恋愛ソングと一緒に流せってことね」
その言葉にジュンペイは勢いよく滑る。あれだけ占って結局それ!? しかもラブソングである意味は!? ジュンペイの占いへの不信感はピークに達した。
「信じるか信じないかは貴方次第……」
「それみんな言ってますよね……」
「私は信じるから放送部に頼むけどねっ」
えっ? ジュンペイは言葉の意味が飲み込めない。
「予言者探しなんて面白そうなこと、私たちが見逃すわけ無いわっ! 徹底的に究明してやるっ……フフフフフ……」
そしてジュンペイ達は部室を後にする。どうやら予言者探しの作戦会議をするらしいが、オカルト嫌いのジュンペイについていけるわけがなく逃げたしたのだ。
「じゃあ、最後にこれ一枚引いてっ」
部屋を出る前に、サダコが手慣れた手付きでカードを広げた。ジュンペイは意味も分からずそれを引く。裏返すと、そこに描かれていたのは焼落ちる塔の絵だ。
「ジュンペイ君っ……やっぱり……!」
それを見た瞬間、サダコの死んだような目がまるで少年のように輝くのを、ジュンペイは忘れられなかった。
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