Loop1 5/22(日) 17:23【週末黙示録:3】

 2022年 5/22 (日) 17:23『瀬戸ノ夢学園』


(えっちょ、なにこれ!? どうなってるの!?)


 ジュンペイの声が、心のなかにこだまする。喋ろうとしても声が出ないのだ。発したはずの言葉は、ジュンペイの脳内でエコーを響かせるだけである。


(これどういう状況!? 声が——)

(あーもう、うるさい。少しは落ち着きなさい)


 ジュンペイの脳内に、何故かオモテザカの声が聞こえた。期待してなかった返答に、ジュンペイは藁をもつかむ思いだ。


(聞こえてる? 僕はどうなって……?)

(ええ、当然の疑問ね。本当はゆっくり教えて上げたい所だけど、時間が無いから色々端折るわね)


 その時ジュンペイの上空で、一つの流星がこちらに向かって吸い込まれてくる。


(その姿は超人。タイプはM、マイティ。良いじゃない、結構使いやすいやつで)

(超人……?)


 ジュンペイは改めて自らの体を見下ろす。まるで黒い全身スーツを着たかのような胴体。その表面を胸から溢れる光の線が、まるできらめく流れ星のように尾を引きながら循環していた。その光の線がオーラのようなものを吹き出し全身を輝かせている。これが超人マイティ。例えるなら神秘の巨人といったところか。


(ほら、来たわよ)


 刹那、マイティの背後にあるグラウンドで凄まじい爆発が起きた。グラウンドはえぐれ、吹き飛ばされた破片がマイティを襲う。


(好きなんでしょ? 特撮。良かったわね、貴方も下らないヒーローの仲間入りよ)


 そして立ち上る爆炎の中から、街を燃やす炎のトカゲ、それと同じ種類の怪獣がマイティに向かって雄叫びを上げた。


(まさか……?)

(ちなみにジュンペイ、喧嘩の経験は?)

(無いよ! 全く!)


 その言葉に、オモテザカは舌打ちを吐く。それと同時に怪獣が大きく息を吸った。


(ああもぅ、僕空想Qは観てないんだけど!)


 瞬間、マイティは地面を蹴った。まるで砂浜を駆けるように大地が沈み滑る。だがジュンペイは、今までに無いほど体が軽いのを感じていた。まるで月面に立ったかの様に全てがゆっくりに見える。マイティは拳を構え、火炎を吐こうとする怪獣のアホ面目掛けて振り抜いた。


 初めて感じる感触だった。相手の肉が潰れ骨が砕ける嫌な手応え。その反動として腕を襲うビリビリとした衝撃。それを感じた瞬間、ジュンペイを包んでいたゆっくりとした時間はなくなる。今殴った怪獣が勢い良くぶっ飛び、隣の校舎に土煙を上げながら叩きつけられるのがリアルタイムで感じ取れた。そして——


(あっつ!? 熱い熱い熱い!)


 怪獣を殴った左手を、凄まじい熱が襲う。


(延焼怪獣ナヒーパム。特徴は見ての通り、全身がマグマみたいなので覆われていることよ。ていうかそこまで熱くないでしょ? 大袈裟なリアクションしてんじゃないわよバカ)

(いや熱いって! 火傷するって!)

(そのぐらいで超人が傷つくわけないわ。まったくこれだから男は……この程度、我慢しなさい)


 その時、マイティの顔を炎が襲う。倒れていたナヒーパムが瓦礫に埋もれたまま、その体制で巨大な火球を吐いたのだ。続けて二発、三発、次々とナヒーパムの火球がマイティに命中する。


 だが、ナヒーパムが四発目の火球を吐き出そうとした瞬間だった。火炎の中から飛び出したマイティが凄まじい速度で地面を駆け、ナヒーパムとの距離を一気に詰める。そして今火球を吐こうとしていた口元を、唸る剛脚で蹴り上げた。


 くしゃみをする時、無理に口を閉じたらどうなるだろうか? 行き場を失った空気は体の中で行き場を失い、気圧を高める。暴発。マスクドオンではたまにある話だ。


 一瞬の静寂の後、ナヒーパムの体表に亀裂が走る。ジュンペイの目論み通り。直後、ナヒーパムは行き場を失ったエネルギーを抑えきれず爆ぜた。


 凄まじいエネルギーだ。校舎は吹き飛び、マイティも宙に浮き上がる。勢い良く頭から転げ落ちるマイティ。顔を上げるとそこにはさっきまでナヒーパムだったものが転がっている。


(勝った……?)

(いえ、終わりね)


 その時、マイティの体を再び火球が襲った。ナヒーパム。先程の戦いで集まってきたナヒーパムの群れ。八頭を越えるナヒーパムが、マイティ目掛けて一斉放火を始めたのだ。


(ちょ——待っ——)


 息つく間もなかった。凄まじい火球の波はマイティを瞬く間に飲み込む。熱い。凄まじい熱と痛みが、ジュンペイの意識を瞬く間に失わせた。


(オモテザカさん——逃げ——)


 そしてジュンペイは静かに、だが確実に、自らの命が終わる音を聞いた。

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