第4話 マサから見た父

 シュンは、マサを見上げながら静かに問うた。


「だったら、マサ。今のお前だったらどうする?」

「何、それ……」


 マサは涙ぐんだ顔を見せまいと、つんつるてんの着物の袖口で目を拭う。


「金もないし、地位も名誉もない。おまけに子供ときた。お前がもし腹痛を起こしたとして、誰が助けてくれると思う?」


 そう言われて、マサはぽつりと言った。


「……父さん」


 その答えに、シュンは朗らかに笑う。マサもリフが医師であることはちゃんとわかっているのだ。


「リフはここにはいない。だから、近くの町医者に診てもらうと考えるんだ」

「それで?」


 ぐずぐずと、マサは鼻を啜る。その間に、シュンは笑みを消し真剣な表情でマサを見た。


「でも、今のマサにはお金がない。お医者さんに診てもらうためのお金がないんだよ。そうすると、町医者は金のない者を相手にしない。だから、マサは診てもらえないよ」


 マサは唇を突き出す。

「嘘だ!」

「本当だよ」


 シュンは穏やかな口調で、しかし想いを込めて孫に言う。


「だから、リフは頼られていたんだ。お金のない人たちからな。じいちゃんは、リフがやっていたことが、全ていいとは言わない。将来があったお前たちの人生を、台無しにしたともいえるからだ。だけど、だからと言って全て否定もしない。あいつがやってきたことは医師として立派なことだ。……だからリフだったら、絶対にお金のないマサでも診てくれるよ」


「そりゃあね、父さんだもん」

「はは。そりゃ、そうだ。だけど、じいちゃんがそういうことを言っているんじゃあないことは分かるだろ?」


 マサはわざと顔を腕で隠す。これは、彼が相手の意見に折れたときにいつもする癖である。そんな彼に、シュンは諭すように言った。


「なあ、マサ。命はな尊いもんなんだよ。それを救うことができるって、すごいことなんだ。そう思わないか?」

「……」


 すると、マサは目の赤い顔をシュンに向ける。顔は随分と不機嫌だった。だが、それはマサがシュンに負けを認めたと言うことである。


「少し頭が冷えたか?」


 シュンが笑みを浮かべて聞くと、マサは可愛げのない返事をする。


「最初っから冷えてるやい」

「はは、そうか」


 そして、シュンは小屋の入り口を見た。太陽の光がだんだん強くなってきていた。木漏れ日が一層眩しく見える。

 シュンは目を細めながら、こんなことを言った。


「でもな、マサ。もし、本気でここから出たいって言うんなら、方法はあるよ」

「え?」

「ここを出たいなら、方法があるんだよ」


 そのように言われて、マサはきょとんとして祖父を見た。


「どういう方法?」

「城で働くのさ」

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