第2話 祖父の問い
「マサ、それに座ったらいい」
小屋に着くと、シュンは入るなり近くにいくつか置いてあった木箱に座る。そして、入り口で突っ立っているマサにも座るように促した。
「ここ、じいちゃんの秘密基地だったの?」
マサは渋々小屋に入ると、祖父に尋ねた。
「いいや。ただの物置小屋だ」
マサは小屋の中を見回したが、あるのは鍬や鎌に、マサが入れそうなほど大きな瓶が二つあるくらいでそれほど物はない。奥には棚もあるが、以前入ったときに見たところ、砂ぼこりを被った汚らしい分厚い紙束と木箱が二つあるくらいで他にはなかった。
それなのに、祖父がどうして物置部屋などと言うのかがマサには解せなかった。
「でも、何もないじゃん」
「そうか?」
「うん」
マサはシュンと同じように椅子に座りながら続けた。
「だって村にいたとき、地主の子の家に行って、土蔵の中を見せてもらったことがあったんだけど、色々な百姓道具があったよ。それに比べるとここは何にもない」
シュンはからからと笑った。
「そりゃあ、百姓じゃないものな。あるわけないさ」
「でも、作物育ててるよね?」
「まあな。でも、そんなに道具は必要ないよ。稲作をしているわけでもないし、山の中から採ってくるものも多いからな」
「ふーん……」
するとシュンは、背負っていた籠の中から、笹の葉でくるまれた握り飯をとりだし、一つをマサに渡した。それは、軽く炒めた山菜が混ぜ込まれているご飯だった。
「お腹空いてたろう? ほれ、食べぇ」
マサは祖父から握り飯を貰い、ぱくりと一口食べる。それはまだ温かく、口の中で米の甘みと炒めた山菜の香ばしさが混ざり合うと、彼の食欲が目を覚ました。マサはすぐに二口目を頬張る。
「美味いか?」
「うん」
「そうかあ」
そう言うとシュンも握り飯を頬張った。
五分づきの米は少しぼそぼそとして食べにくいが、山菜のシャキシャキとした食感があるお陰であまり気にならない。その上、塩加減も丁度いい。
「うん、やっぱり美味いな」
ちらりと視線をマサに向けると、彼は黙々とおにぎりを食べていた。余程お腹が空いていたようである。
「それにしてもミエさん、流石だ」
「……なんで?」
マサは一つ平らげてしまったので、シュンの手元を見た。どうやらもう二つ握り飯がある。シュンはマサが自分の手元を見ていることに気が付いて、握り飯がのっている笹の葉を孫に近づけた。
「マサが腹空いているって分かってたもんよ。だからこれを作って持たせてくれたんだ」
マサは一瞬握り飯を取る手を止めたが、空腹には耐えられず、一つ手に取るとそれを頬張った。
「……うん」
「ミエさんに感謝せんといかんよ。お前の父であるリフにもな」
それに対し、マサは素直に頷いた。
「分かってるよ……」
シュンはにっこりと笑うと、自分も握り飯を一つ食べる。その間は、二人で開きっぱなしだった小屋の出入り口から外を眺めていた。
(「絵」が動いてる……)
小屋の戸の木枠が、まるで外の景色を切り取ったかのようだった。風が吹くと、さわさわと木々が揺れる。すると、葉に溜まっていた雫がぱらぱらと地面に落ちる。まるで「動く絵」だった。
「なあ、マサ」
「……うん?」
マサは、遠くに聞こえる雀の声を聞きながら生返事をした。
「お前はここから出たいんか?」
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