第5話 謎の先輩と夢絵


 放課後の教室にはまだ半数ぐらいの生徒が残っていた。

 室内のあちこちに小規模な集団が出来上がっていて、ぺちゃくちゃとお喋りに勤しんでいる。楽し気な笑い声があちこちから上がっていた。


 そんな喧騒の中、私は自席に座ってひたすらぼーっとしていた。


 視線の先にあるのはお馴染みのタブレット。

そしてそこに表示されているのは、やっぱり自分で描いたイラストだった。


 昨日の深夜に描き上げたものだ。

 あの後無事家に帰りついた私だったけど、何故だか無性に創作意欲が湧いてきて仕方がなかったんだ。

 なもんで睡眠時間を削って深夜までこの絵をガリガリと描いていた。おかげで今日は若干寝不足だ。


 画面の中央では一人の選手がバスケットボールを握っている。

 が、それはステフ様では無かった。

 ステフ様より身長は低めで、髪にも肌にもトーンは使っていない。金髪と白皙を表現するためだ。

 ただ3Pを撃とうと試みているところは、若干の共通点ではある。


 昨日、引き戸の隙間から垣間見た光景。

 それがそのまま目の前に描き起こされていた。


「あれ?今日の絵はステフ様じゃないんだね」

「……どぅわっ!!?」


 その時、なんの前触れもなく背後からそんな声がする。

 飛び上がって振り返るとそこには遥が立っていた。大げさな反応を示した私のことを、目を丸くしながら見つめている。


「びびび、びっくりしたー……!急に話しかけるのやめてよっ」

「ご、ごめん……。そんなに驚かせちゃった?」

「別に普段ならいいけど。今はこう、センシティブな絵を見ているところだったから」

「……ひーちゃん。学校でそういう絵を見るのはどうかと思うよ」

「え?……いや違うよ?18禁とかそういう意味じゃないからね?」


 遥が引きつった顔で見てきたので、慌てて訂正した。

 私をなんだと思ってやがんだこいつ。


「今日のは夢絵?じゃなかったんだね。ひーちゃんいなかったし」

「え?あ、うん。まあね……」


 遥がさらにタブレットを覗き込もうとしてきたので、私はそれを胸にひしと抱いた。


「なんで隠すの」

「な、なんでもない。なんかそういう気分だから」

「今更ひーちゃんがどんな絵を描いてたって私は変に思ったりしないよ?」

「……だからそれおかしくね?私が日常的にヤバいイラスト描いて遥を引かせてるみたいじゃん」

「あははは」

「笑って誤魔化すな。……はい、もうこの話終わり!違う話しよっ」


 そう言って私は強引にこの話題を打ち切った。

 遥はまだ不思議そうな顔をしていたが、幸いにもこれ以上追及してくることは無かった。


 だ、だってさ……どう説明しろっつーんだよ。

 この人は昨日学校でチラッと見かけた人で。

 すごく3Pシュートが上手くてそれがどうしても忘れられなかったから、思わずイラストにしちゃった、なんてさ。

 恥ずかしくてとてもじゃないけど口には出せない。


「まあいいや。それよりひーちゃん。もう準備出来てる?」


 そこで遥がそして後ろ手に隠していた右手を眼前に持ってくる。

 その手には一枚の素っ気ないプリントが掴まれていた。

 なにを言いたいのかはすぐにピンと来る。


「ああ、入部届け?」

「うん。今から出しに行こうよ」


 そういえば昨日そんな約束もしてたな。

 私は鞄の中からクリアファイルを取り出し、挟まっていた入部届けを引っ張りだす。

 そして遥と連れ立って教室の外へと向かった。

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夢女子とバスケの女神 @goat666

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