第7話 イケメン王子襲来

「俺はレン。この国の王子だ」


 私達が脱走した矢先に出会ったのは、攻略キャラクターの東條先輩にそっくりな王子様だった。


「王子様がどうしてこんな薄汚い牢屋へ?」


 私に続いて牢屋から出て来たモーリスが、怪訝な顔でレン王子に尋ねる。


「堂々と城に現れた大罪人がどのような者か見に来た」

「大罪人って……もしかしなくとも、私?」

「貴様以外に誰がいるんだ。闇の力を持つ呪われた女め」


 の、呪われた女って……!

 闇の力だかなんだか知らないけれど、そこまで言われる筋合いはないと思う。

 けれど、この失礼極まりない彼の物言いはますます東條先輩を思い出させた。

 人のことを「どんくさい」とか「のろま」とか言ってきたり、あの人も本当に失礼な人だった。


「あおい、呪われてない! あおいは、優しい!」


 私を背に庇うように立つポポ。

 そんなポポの方がどう考えても優しいよ、ありがとう。

 でも相手は王子様だから、その今にも襲いかかりそうな殺気だけは抑えてほしい。


「ふん、何と呼ぼうが俺の勝手だろう。そんなことより、ついて来い」

「え……?」

「ここから出してやると言ってるんだ」


 レン王子の言葉に思わず身構えてしまう。

 だって、元乙女ゲームのヒロインセンサーにびんびん来ている。

 このまま大人しくついて行ったら、何かとんでもないイベントが発生してしまう気しかしない。


「さっさと来い。それとも、まとめて死刑にされたいのか?」


 退路を断って選択肢をひとつしか用意してくれないあたり、やっぱりどう見ても東條先輩なんだよなあ……。

 モーリスやポポを巻き添えにするわけにはいかないし、私もまだこんなところで死ぬわけにはいかない。

 私は警戒をしつつも、レン王子について行くことにした。











 先程の牢屋と打って変わって、綺麗に整えられた部屋に通された。

 しかし、ここに通されたのは私だけ。


「……モーリスとポポはどこに連れて行ったんですか?」

「あいつらなら別室で丁重にもてなしてやっている。手荒な真似をするつもりはないが……すべては貴様の返答次第だな」


 見るからにお高そうなソファーへと座るように促される。

 レン王子は机を挟んで私の正面に腰を下ろした。


「単刀直入に言うが、貴様ら一行を即刻死刑にすべきだというのが国王の結論だ。闇の力を持つ時点で、魔王と無関係ではないだろうからな」

「でも、私達を牢屋から出したということは、別の結論が出たということですよね?」

「そうだ。俺だけが貴様らの死刑に反対した」


 レン王子の言葉に息を呑む。

 貴様に一目惚れしたからだ、とか言われたらどうしよう。

 プライドの塊みたいな東條先輩だったら絶対に言わないだろうけど、このレン王子は今のところ東條先輩に似ているだけで一応別人だしあり得なくはない。


「なぜ反対したんですか……?」

「先程も言ったが、闇の力を持つ時点で貴様は魔王とは無関係ではない。となれば、貴様を餌に魔王をおびき寄せることも可能だと考えた」

「餌って……私、魔王にすら会ったことないですよ? 闇の力っていうのも、持ってるのがわかったのはついさっきのことですし」


わかってたら、今発生しているイベントを回避するために全力を出していた。


「貴様は無関係だと思っていても、魔王側がどう考えているのかはわからん。意味もなく闇の力を持っているとは思えんしな。何にせよ、未だに誰も魔王の居場所も突き止められていない状況だ」


 レン王子が品定めするように私を見据える。


「勇者共がふがいないのかと思っていたが、もしかすると魔王を見つけるためには何か鍵のような物が必要なのかもしれん。例えば、闇の力……とかな」

「!」


 確かに、闇の力が必要不可欠なのだとしたら今までの勇者達では魔王の居場所を見つけられなかったことに説明がつく。


「それで、私は何をすればいいんですか?」

「話が早い女は嫌いじゃない。魔王の居場所として候補となっている場所へ貴様らには向かってもらう。どんくさそうだが、勇者の儀に参加しようとするくらいだし腕に覚えはあるのだろう? 魔王を見つけ次第、そのまま討伐しろ。それが嫌なら、即刻死刑だ」

「やります!!」


 食い気味で返事をする。

 元々目指していた魔王討伐を許可してもらえるのだから、願ったり叶ったりだ。

 あと、普通に死刑は嫌だ。


「ふっ、やる気はあるようだな」


 ずっと眉間に皺を寄せていたけれど、やっと微かに微笑んでくれる。

 飽きるほど見ている顔だから特になんとも思わないけれど、世の人達が見たら数人は卒倒しているだろう破壊力ある微笑だ。


「だが、貴様らのことを信頼しているわけではない。よって、監視を付けさせてもらう」

「監視ですか?」


 仲間が増えると考えれば、なんてことはない。

 むしろ三人でこの先冒険していくのは心もとないので、もう一人か二人くらい仲間になってくれるとこちらとしても助かる。


「監視は構いませんが、出来ればイケメンだけは避けて頂けるとありがたいです……」


 だって、恋が芽生えてしまうから。

 前もって要望を出しておけば安心だろうと思った私に、レン王子は衝撃的な一言を放った。


「それは無理だな。監視役は俺だ」

「え……!?」


 レン王子が監視役!?

 自分でイケメンと認めていることなんかどうでもよくなるくらいの驚きに、私は困惑を隠せなかった。

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