第6話 イケメンとの再会
勇者の儀に参加して、私はようやく正式な勇者になれるはずだった。
それなのに……。
「え……?」
国王様の持つ剣は、禍々しい闇を放ち続けている。
何で、どうして。
ほかの人達の時は、こんなこと起こっていなかったのに。
「この者達を即刻捕らえろ!」
国王様の命令によって、私達三人はあっという間に兵士達に取り抑えられてしまった。
中庭のすぐ近くで、あおい達が連行されているところをじっと見ている男がいた。
「おい、この騒ぎはいったい何なんだ?」
男は傍にいた兵士に尋ねる。
兵士は恭しく敬礼をした。
「はっ! 勇者の儀にて闇の力を持つ者が現れたもようです!」
「闇の力だって……?」
兵士から、あおい達へと視線を戻す。
闇の力ということも気になるが、それ以上に男には気がかりなことがあった。
「あの女、どこかで……」
睨むように、男はあおいに視線を注ぐ。
「王子、いかがなさいましたか?」
「……いや、何でもない」
王子と呼ばれた男は踵を返し、城の奥へ歩き出した。
「はあ……どうしてこんなことに」
「あおい、落ち込まないで?」
「こんなところに突然入れられたら誰だって落ち込むでしょ」
モーリスに言われて、改めて周囲を見回してみる。
暗くてほこりっぽくて無機質で、鉄格子で出られないようになっているこの部屋。
もとい、牢屋。
と言うか、この
「ねえ、牢屋に入れられたってことは、かなり大変なことをしちゃったってこと?」
「そうだろうね。僕もこの世界のことに詳しいわけじゃないからよくわからないけど」
私とモーリスのやり取りに、ポポだけがきょとんとしている。
「剣は、あおいの闇の力に反応した。闇の力、すごく珍しい。ポポ、話にしか聞いたことない」
「闇の力……? それって、どういう力なの?」
「ポポも、あまり知らない。でも、魔王にしか使えないって、里で昔聞いたことある」
「えっ」
闇と言う言葉から、何かよくないものなんだろうという認識はあった。
だけどまさか、魔王にしか使えないなんて……!
「それは……牢屋に入れられて当然だね……」
「牢屋に入れられるだけならまだましな方かもね」
モーリスがさらりと恐ろしいことを言う。
けれど確かに、そんな危険人物をずっと牢屋に閉じ込めている必要はないわけで……。
最悪の場合、命だって危ない。
「ねえ、モーリス。気になってたんだけど、私ってゲームオーバーになったらどうなるの?」
普通はだいたいどの
私が元々いた
お願いだから、今からでもやり直しが出来るならさせてほしい。
「
「へ?」
「だから、文字通りゲームオーバー。この
「何それ!? 聞いてないんだけど……!」
そんなことになるくらいなら、そこらへんのイケメンにキスされて元の
いやいや、戻りたいわけじゃないんだけど。
まさか
何度かアルバイトをしたことはあるけれど、それの求人情報だってもうちょっと細かく書いてくれていたのに。
「あおい、消えちゃうの……?」
私の事情をまったく知らないながらも純粋に心配してくれるポポ。
彼のおかげで冷静さが戻って来る。
だって私はまだ消えるわけにはいかない。
「大丈夫、消えないよ。私はこの
「そのためにも、この窮地をどう乗り切るか考えないとね。何もしなかったら本当にゲームオーバーになりかねないよ」
「となったら、やることは一つしかない!」
握りこぶしを作り、立ち上がる。
なぜかって? もちろん気合いを入れるためだ。
「脱走しよう!」
「脱走!?」
「脱走!」
モーリスは驚き、ポポはなぜか喜んだ。
勇者として認めてもらうことも大切だけれど、それ以上に命の方が圧倒的に大切だ。
職業としては一応既に勇者だし、この際自称勇者でやっていくのもありな気がして来た。
「まあ、それしか方法がないなら……でもどうやって?」
「モーリスの魔法でなんとかならない?」
「ならないよ。レベルがもうちょっと上がれば出来たかもしれないけど」
「そっか……じゃあ地道に穴を掘る?」
相談していると、聞いたことがないような音が耳に届いた。
そちらに目を向けると、ポポが鉄格子を素手でひん曲げていた。
「あおい、逃げれる!」
「ポポ偉い!」
さすが、人の姿をしていれどドラゴン。
こういう時、持つべきものは頼りになる
ご褒美の意味を込めて、思い切りポポの頭をよしよししてあげた。
「えへへ、あおいに褒められた」
へにゃりと微笑む姿がかっこいいのに愛くるしい。
もう一人の
何はともあれ、これで脱走できる。
「よし、誰にも見つからないように気をつけて逃げよう」
「誰にも見つからないようにか……それなら、早々に失敗に終わったな」
一歩牢屋の外へ踏み出したところで、モーリスでもポポでもない声が聞こえた。
人の気配はなかったはずなのに……。
というか、なんだか懐かしい声な気がする。
焦らなきゃいけない場面だとわかっているのに、『声』が私の中で非常に引っかかった。
この声の主に会わなければならないという思いと、会ってはいけないという相反する思いが交差する。
どうしてこんなふうに思うのか。
声の主の姿を捉えてしまった瞬間、私はその理由を知った。
「東條……先輩?」
この私が見間違えるはずがない。
金色の美しい髪、自信に満ち溢れた情熱的な瞳……私が元々いた世界『ドキドキ! 学園メモリーズ♡』の圧倒的人気キャラクター、私が恋をし過ぎて胃もたれを起こした男、
東條先輩は不愉快そうに眉をひそめた。
「トウジョウ……? 誰だそれは」
「え?」
「俺はレン。この国の王子だ」
どこからどう見ても東條先輩なイケメンは、はっきりとそう言った。
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