第2話 イケメン達が放っておいてくれない
「……まったく、せっかく忠告してあげたのに。さっそくフラグ立ててどうするのさ」
お金持ちらしきイケメンに引き止められ、困り果てていた私の元にモーリスが助けに来てくれた。
「モーリス!」
「ほら、さっさと行くよ」
モーリスに腕を引かれ、人の波へと戻る。
イケメンが私に向かって何かを言っていたけれど、周囲の喧騒でよく聞こえなかった。
「……ここまで来ればもう大丈夫かな」
しっかり掴んでいた私の腕を離し、モーリスが疲れたと言わんばかりにため息をつく。
「助けてくれてありがとう、モーリス」
「君のお世話をするのが僕の仕事だし、別に礼なんていらないよ。それより、君が持つ『乙女ゲームスキル』がどんなに大変な代物なのかはわかっただろう?」
次々とイケメン達に声をかけられ、フラグが立ちそうになったことを考えると頷かずにはいられない。
私のRPG生活を脅かす最大の敵と言っても過言ではない、なんと恐ろしいスキルだろうか……。
「無意識に発動するスキルだけど、この
「うん。イケメンとはなるべく接触しないようにするよ」
そう言ってから気づく。
そういえば、一番身近にとんでもない
柔らかそうな
思えば、最もフラグが立ちそうなのってモーリスなのでは?
私は身構えた。
「急に離れてどうしたわけ?」
「待って、それ以上近づかないで。こんなところでアオハルするわけにはいかないの」
「アオハルって……もしかして、僕が君に惚れるかもしれないとか思ってる?」
強く頷く。
モーリスは頭を抱えた。
「安心して、僕には君のスキルは効かないし。効いたとしても絶対好きにならないから」
「本当に? 絶対好きにならない?」
「ならないよ。寧ろ君の方こそ、僕に惚れたりしないでよね」
「それこそ絶対大丈夫。恋愛はもうこりごりだから」
きっぱり言い切ると、モーリスはなぜか微妙そうな顔をした。
いや、惚れるなって言ったのはそっちの方じゃない。
「何でもいいけど、いい加減酒場へ行くよ」
と言ったところでモーリスが男性とぶつかりかけた。
何というか、モーリスって……。
「モーリスってもしかして、ドジっ子気質……?」
「違う、そんなんじゃない。ただ……」
「ただ?」
「ちょっと、よく見えなくて……」
よく見えなくて?
ふと、今までのことをよく思い返してみる。
出会ったすぐ後に、握手をスルーされたこと。
街に出た途端、人の波に呑まれてはぐれそうになったこと。
その直後、結局はぐれてしまったこと……。
もしかして今までのは全て、よく見えなかったがために起こった出来事だったのかもしれない。
「……モーリス、酒場に行く前に眼鏡を買いに行こう?」
「大丈夫だよこのままで。魔物を倒したりしてお金がそれなりに貯まったら買いたいとは思うけど、今君が持ってるお金じゃ眼鏡を買うだけですっからかんになるし」
「お金?」
ポケットを探ってみると、いつの間にかお財布が入っていた。
なるほど、RPGらしくお金の管理は
いくらか入っているようだったので、中身を確認してみる。
この
最初からある程度資金を用意して送り出してくれたあたり
「モーリスって
「一応部下ってことにはなってるけど、給料とかは出ないんだよ。何というか、複雑な事情があって」
やばい、とんでもないブラック企業だった。
これ以上は詳しく聞かない方がいい気がする。
しかしよく見えないとなると、今後の冒険にも支障が出て来かねない。
「よし、やっぱり眼鏡を買いに行こう」
「僕の話聞いてた?」
「モーリスにはこれからもお世話になるし、そのお礼ってことで。それにさっきの話だと、お金は魔物を倒せば手に入るみたいだし、買っておいて損はないと思うんだ。というわけで、勇者の決定は絶対です」
そう、RPGにおいて勇者の権限は絶対だ。
ここがゲームの世界である限り、かつRPGである限り、勇者の決定に仲間であるモーリスは逆らえない。
……はず。
「はあ……わかったよ。そこまで言うなら反対しない」
勇者権限が効いたのかはわからないけれど、モーリスは結局納得してくれた。
「さっさと買って、酒場に行くからね」
「うん!」
数々並んでいる露店の中から眼鏡を探すことは案外簡単に出来た。
けれど、
モーリスは何でもいいと言っていたけれど、
具体的には。
モーリスのあまりの
その結果、あの
と半ば犯人捜しのようなことが行われ、ファン達に私が誘拐されてしまう。
そして、「モーリス様と旅するのやめてよ!」などと言われながらリンチされそうになるのだ。
そこへ颯爽と助けに現れるのがモーリス。
この誘拐事件をきっかけに私とモーリスはお互いの大切さに気づき、恋に落ちる……。
とかそういうイベントが起きかねない。
というか間違いなく起きる。
だって
それを回避するため、私達はいくつも露店を巡ることになったのだった。
無事眼鏡を購入出来、私はモーリスと共に人生初の酒場へとやって来た。
周囲には私達くらいの年齢の人はおらず、大人……特に屈強な男性達が多いように見えた。
皆、ちらちらとこちらの様子を伺っている。
「すごい……RPGって感じがすごい……!」
「はいはい、感動してないでマスターのところに行くよ。えっと……あれがマスターかな」
従業員らしき人達は何人かいたけれど、マスターが誰かは私にもすぐにわかった。
だって、一人だけびっくりするくらいのイケメンだったから。
ゲーム的にそれなりに役割があるキャラは結構な割合で顔がいい。
もしくは多くの人に好かれるような愛嬌がある性格である場合が多い。
マスターがイケメンだとわかり警戒する私に気づいて、彼は微笑んだ。
「いらっしゃいませ。もしかして、新たな勇者様かな?」
マスターの微笑みにはどこか影があるような、儚げな印象を受けた――。
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