020213【懺悔】

 電車を待っていると見慣れない深緑色の寝台列車のような車両が止まった。

 扉は音も無く開いたかと思うと、重厚な紺色の制服を着た、女性がひとり立っていた。帽子があるため口元しか見えないが、真っ赤な唇が印象的であった。

「許しましょうか」

 女性は独り言のようにそう呟いた。私は何の事なのか分からず、立ち尽くしていると後ろから我先に乗らんとする乗客に押され流されるように車内に入ってしまった。

 扉は激しい音を立てて閉まり、周囲を見ると私を押し流していたはずの乗客達は消えていた。

 唖然としていると滑るように動いて、既に私の力ではどうする事も出来なかった。

 諦めた私は車両に入る。どうやら食堂車両のようであり、机が縦に並べられていた。客は私のみである。

 誰も居ないので仕方なく席へ座った。

 すると、今度は葡萄色の制服を着た女性が皿を運んできた。深く被った帽子で顔は見えなかったが、口元を見るに先ほどの女性のようであった。

 横に立ち、皿を私の前の机に置いた。蓋を開けつつ、女性は呟いた。

「救いましょうか」

 それまで私だけであった車内は一瞬で活気に溢れ、満席になった。

 車内は乱痴気騒ぎで、周囲を良く見ると袴を着た人物がいると思えば、ドレスのような華やかな服を着ていていたり、あるいは軍服の人もいるようであった。

 私は皿に乗っていた肉を急いで食べた。

 途端に車内に静けさが戻った。

 それからしばらくの間は外の景色を見ていた。なかなか駅に止まらない電車に不安が募っていったところ、アナウンスが入った。

「信じましょうか」

 その瞬間、私は自身の犯した罪を思い出した。

 しかし、いくら車内を見渡してもただ私がひとりそこに居るだけであった。

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