020125【夜のパン屋】
美味しいパンが食べたい。無性に食べたい。山型では絶対にだめだ。角型食パンが良い。一斤を買って、まだ暖かいそれを手で折るようにして、水分量の多い生地が解けるように離れていく様をどうしても見たいのだ。
そんな話を学校の昼休みに友人にしていた。
「なら、あそこは?」
友人が提案する。
「ほら、あの、駅前に出来た新しいところ」
「あそこはこの前行ったけど良くなかったの」
いつも贔屓にしている店は電車で少しかかるため、平日の学校終わりには行くことが出来なかった。
「他にどこか良いところないかな?」
私が尋ねると、友人はネットで検索をしてくれていた。素晴らしい友人に感心しつつ、私はお弁当で腹を慰めていた。
「ここは?」
画面には町で評判のパン屋が載っていた。
「あ、そこは良い感じだ。何時までやってる?」
画面を熱心にスクロールする友人である。彼女は良いお母さんになるはずだ。
「ごめん、今日定休日だった」
再度途方に暮れていると、隣で一人ご飯を食べていた男子が話しかけてきた。
「もしかして、パン屋探してる?」
私は警戒をしながら頷いた。
「なら、良い店知ってるよ。夜10時からしかやってないからその時間で良けれはだけど」
「え、ほんと?」
私は食い気味で質問した。
「本当だよ。ネットには一切載ってなくて、基本紹介だけなんだ。本当に来て欲しいお客さんのみに紹介してるらしいよ。ほら、ここ」
そう言って渡してきた名刺サイズの紙には店名と裏には地図が載っていた。
丁度昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったため、話は終わってしまい、私は貰った紙を大切にしまった。
帰宅してからは、時間になるのが待ち遠しかった。あまりそんな夜遅くに出掛ける用事は無く、そういった意味でも心踊った。
時間になり、歩いて出かけた。書いてある場所に行くと、壁に深い青色の扉が付いてるだけであった。意識をしなければそこにあることすら見逃してしまうような、慎ましいものである。
おそるおそる、扉をあけてみた。
「いらっしゃいませ」
奥にいる女性の店員が声を掛けた。店内はシンプルて清潔感があり、奥に見える棚には何斤ものパンが並べられているのが見える。
「食パンを一斤ください」
早速私は注文する。
すると、奥にいた女性がレジをお願いと声を上げた。
裏から出てきたのは少年である。
「お待たせしました。こちらで宜しいですか」
私は急に恥ずかしくなった。終始下を向いて、お会計を済ませて直ぐに店を出ようとした。その店員は後ろから声を掛けてきた。
「ありがとうございました。また明日学校で感想聞かせて」
外に出て、私は直ぐにパンを食べた。
パンの味は格別で、文句の付け所がなかった。
「くそう、やられた」
そう呟いて、私はここへ通うことを決めたのだった。
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