020124【思い出】
夜遅かったので、開いてるお店は少なかった。仕方なく私たちはファミリーレストランに入ることにした。
「ファミレスなんて久しぶりだな」
こんなお店で申し訳ないという私の思いとは裏腹に、彼女は目を輝かせていた。
「ドリンクバーとか頼んじゃおうかな」
どこにいても彼女となら楽しむことが出来た。私たちは学生のように時間を忘れて語り合った。
店を出ると、空は少し明るく、橙色の空である。通りかがった邸宅の広い庭でホームパーティが催されていた。人で溢れており、関係者ではなかったが、人混みに紛れてみることにした。
シャンパンやオードブルの波をかき分けていった。荒波を抜ける頃にはすっかりお腹が膨れており、休憩しようと椅子に座った。
すると、同じように彼女も波をかき分け止まり木を探しているらしかった。私は正面の席に座ることを促し、彼女は座った。
「改めて豪華なパーティだったよね。こんなよそ者も全然気にしないなんて」
彼女の手にはグラスが二つある。
「つい貰っちゃったから、あなたに一つあげる」
そう言って私の前にグラスを置いた。
私はそれを持ち上げ、グラス越しに彼女を見た。不確かな彼女は陽炎のように歪んでいる。
「私たちはこうして出会ったんだよね」
彼女はそう呟いた。
「この後、しばらくお互いが関係者だとバレないように取り繕って、それが分かったら大笑いして。つい話し込んじゃって、ファミレスに移動したんだよね。そして明るくなるまで夢中で話したんだ」
いつの間にか辺りは静寂で包まれている。グラスの中の液体を飲み干し、彼女は告げる。
「さようなら。楽しかった」
彼女の姿はもう無かった。
私はいつまでも手に持ったグラスを飲み干せずに、彼女の痕跡を探している。
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