020119【戦争】

 彼と部屋の中で支給されたブーツの試し履きをしている。太陽の光が窓から漏れてきて、昼食に食べたパスタの皿を光らせる。壁に反射し、幾何学模様が映っていた。

「こんなに紐の穴必要なのかな」

「どうなんだろうね、でも無いより良いじゃん」

 そう言って二人で笑い合っている。

 シャツは、糊のついたまだ襟の固い厚手の生地である。

「これなら丈夫そうだ。大抵のことは凌げそうだぞ」

 そう言って私に袖を触るように促した。

 確かに触ると、デニム生地で出来ているような、しかし幾分心許ないものに感じた。

 いつものように彼は洗面台で髪型を整えた。使うワックスはいつも同じものである。それでないと格好良く決まらないのだと言う。

「そういえば、テレビの録画見たかったの結構たまっちゃってるよね」

「そうだね、準備しながらでも付けておこうか?」

 彼は鏡を見ながら暫く考えていた。

「いや、やめとくよ」

 髪を整え、歯磨きをし始めた。

 これまで何度も見ていたはずの、彼の歯を磨く姿がとても新鮮なものに感じた。

「いま何時?」

「もうすぐ40分だよ」

「そろそろかな」

 彼は先程試し履きをしていたブーツを玄関に置いた。

 私が彼の誕生日に購入したロングコートを羽織る。この日のために、寒くないようにと革の手袋も買ってあげた。

「それじゃあ行ってくるよ」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

 そして、彼は、戦争から二度と帰ってくることはなかった。

 私は彼をもう一度抱きしめる事も出来ない。

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