020118【耽美的な夢】

「これもどうせ夢なんでしょう」

 高層ビルの屋上で眼下には夜景が煌々と見えている。

 私が尋ねると、彼は答える。

「ああ、夢だとも。儚くも、自由。自由であるけれど、それでいて窮屈で抑圧的、そして、耽美的な夢さ。ああ、夢とは素晴らしいじゃないか」

 そう言うと彼は目の前の空中を泳いでいる魚を手で捕まえて、頭から齧った。硝子が鳴るような高音が響く。

「それ美味しいの」

「夢に美味しいという概念はないさ。君は夢の中で食べわたものの味を覚えているのかい」

 そう言うと、私たちは夜汽車に乗っていた。寝台列車のような、一車両がバーになっているような場所だ。

 彼はワイングラスを片手に持っている。中には葡萄の種が入っていた。

「それを入れてくれないかな」

 私の横に置いてある、とろみがかった琥珀色の液体を指差す。彼のグラスにそれを注いだ。

 途端に種から双葉が出てきたと思ったら、直ぐに木々枝々が天井まで伸びて行き、目の前に重量感のある一房がしなっている。彼はその一粒を取り、口に放った。弾けるような音がして、いつのまにか電車は駅に着いていた。

 私は彼に伝える。

「そろそろ夢が終わる」

 電車の扉が開く。

 立ち上がり、座っている彼を見るが、彼はこちらを見ていない。

「夢はどうだった」

 彼がぽつりと独り言のように聞いた。

 私は答える。

「素晴らしかったよ」

 彼はこちらを目だけで見て答える。口元は笑っていたのかもしれない。

「そうだろう」

 彼との別れを済ませて、私はホームに降り立ち、夢が終わった。

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