020102【珈琲の苦味】
A氏は毎年この時期に親戚との集まりがあるため、朝早く家を出なければならなかった。
私は彼と時間が無いながらもお雑煮を食べた後、洗濯をして珈琲を淹れることにした。
もともと珈琲は飲むことが出来なかった。幼い頃、母親や周りの大人たちが飲んでいるのがいつも不思議だった。ただ苦くて、味もなく、私にとってはあくまで大人としてのシンボル的意味合いが強かった。大人になれば美味しさがわかるよと誰かに言われたのが癪で、よく我慢をして見栄を張ったこともあった。
洗濯物を干し、昨日行くことが出来なかった初詣に向かうまで時間があったため、台所の上段を開けた。そこには三種類の円柱状の密閉できる容器があり、その中の青色を手に取った。容器から豆を取り出し、ミルに入れた。電動のミルも考えたこともあるけれど、手で豆を挽く感触と音が好きだったため購入は見送った。
フィルターをセットして、沸かしたお湯を注ぎ入れる。
色々注ぎ方で味が変わると言うけれど、私は一度蒸らした後に少しずつ一定の量のお湯を注ぎ続けるやり方をしている。
窓際のソファに座り、よく晴れている空を見ていた。空気が冷たいからか遠くから電車のブレーキ音が聞こえた。
今頃、どのような話をしているのだろうかと考えてしまう。きちんと笑えているのだろうか。人付き合いのあまり得意ではない彼は少し不安そうに家を出て行った。
彼の声を探すように耳を澄ませるが、もちろん聞こえはしない。
先程淹れた珈琲は思ったよりも濃く抽出してしまったためか、口に含むととても苦く感じた。私は彼と初詣から帰ってきたら、この珈琲を二人で飲もうと決めて冷蔵庫にしまったのだった。
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