ルポ・35:vs.繰機械生命体
「ゲン様、カブ様、お気を付けください!」
開け放たれていたドアから飛び込んでくるなり、セヴァスチャンが厳とカブに向かって叫ぶ。
「セバスチャンさん!?」
「この感じは……まさか?」
厳とカブがセバスチャンに目を向けると、かなり負傷をしている様だ。
と、カブが何かを察したようで警戒態勢を取る。
「セバスチャン!?」
「爺や?」
少し遅れて、リンとマリアヴェーラも驚愕に目を見開いた時。
ドン、と言う破壊音と共に、開け放たれたドアではなく壁をぶち抜いて何者かが部屋へと踊り込んで来た。
「! やっぱり……
「なんだって!?」
カブの叫びに、厳も驚愕を深める。
壁をぶち抜いて現れたのは人型形態のカブよりも三廻りは大きいボディを持っていた。身長は2メートル近くとかなり大柄だが、以前出会ったレヴィンやトレノたち
見た目は雌型――つまりは女性型アンドロイドで、完全な無表情だが細面の美しい顔をしている。髪と瞳、そしてボディの大半は鮮烈なまでに赤く、厳はどこかで見たその赤に首を捻った。
「と、それどころじゃないか。マリー、リンさん! こっちへ」
しかし厳はすぐに思考を切り替えると素早くリンの手を取り、自軍たちの後ろへと隠すようにする。
「リン、マリーと一緒にお父さんの所へ行って! セヴァスチャンも!!」
カブも厳をフォローするようにして、三人をガーランドの元へ向かわせた。
そしてすぐに厳の前に出て、油断無くG型機械生命体の様子を伺ったが、入ってきたままの状態で動きが止まったようだ。
「カブ、G型機械生命体ってのはなんだ?」
厳もG型機械生命体を睨めつけつつカブに問う。
「G型機械生命体は、私と同じバイクが本体の機械生命体だけど排気量が違うんだよ。あいつは、大きさからして多分400㏄から750㏄くらいだと思う」
「ミドルクラスか……カブちゃん、パワー負けしちゃうか?」
未だ動かないG型機械生命体を警戒しつつも、厳がカブに冗談めかして尋ねると。
「私単体で戦ったらひとたまりも無いだろうけれど、主と
横目で厳を見ながら、カブが微笑んだ。
と、その時。
「うふふふふ……」
冷たい笑い声を響かせつつ、壊れた壁からではなく、今度は開け放たれたドアから何者かが入室して来た。
「……ほう」
「へえ」
その姿を確認した厳とカブが半ば感心したような、もしくは呆れたような声を出し、リンは愕然としつつその名を叫ぶ。
「ハ、ハンナ……なぜ貴女がここにいるの!?」
そう、それは厳に痛い目に遭わされて失禁した上級女魔導士、ハンナ・ヴォン・ランドルフであった。
「うふふふ……なぜ、ですって? 決まっているわ。その男を殺すために来たのよ。ふふふふふふ……」
薄ら笑いを晒しつつ、ハンナがリンに答える。
「何ですって!? ふざけないで。そんな事、させないから!」
それを聞いたリンは表情を強張らせつつも、ハンナに向かい叫んだ。
「別に貴女の許可なんか要らないわ。さあ、やりなさい! あの男を殺すのよ!」
ハンナが右手薬指に嵌めた、赤いルビーのような宝石を持つ指輪に叫ぶ。
と、無表情のまま動かなくなっていたG型機械生命体の赤い瞳が薄っすらと輝き、厳の姿を捉える。
「くっ! ……そうよ、その男よ! 早くやりなさい!!」
ハンナは一瞬頭を押さえて苦鳴を上げたが、厳をキッと睨め付けて再び指輪に向かって叫ぶ。すると、G型機械生命体が予備動作も無く厳に向かってダッシュを掛けて来た。
「うおっと!?」
「ふっ!」
ショルダー・アタックのような態勢で突っ込んで来たG型機械生命体を、厳が紙一重で交わす。と同時に、カブの拳がG型機械生命体に突き刺さる。
「っ!!」
だが、拳を突き入れたカブは逆に弾かれ、態勢を崩して床に倒れ込んでしまった。
「カブ、危ない!」
厳の叫びに、カブは床を転がってG型機械生命体から距離を取り、間一髪でG型機械生命体が踏み下ろして来た足から逃れた。
と、カブが退いた床がG型機械生命体によって踏み砕かれて大穴が空く。
「さすが、G型機械生命体。パワーが段違いだね」
穴に足を突っ込んで動きが鈍ったG型機械生命体の隙を突き、カブは素早く立ち上がりつつ呟いた。
「おい、お前! なんでそんな女に従ってんだ!?」
穴から足を引き揚げ、再びこちらに虚ろな視線を向けたG型機械生命体に対して厳が誰何する。だが、無表情を貫くG型機械生命体から答えは返らない。
「無駄よ。そいつは私の指示にしか従わないわ。そして、貴方のガラクタとはレベルが段違いなのよ!!」
ハンナが熱に浮かされたように叫び、厳を睨み付ける。その言葉を聞いたガーランドが、ピクリと眉を上げた。
「まさか……極秘に開発が進められているという
「マ、
「なに、それ?」
ガーランドの呟きを拾った厳とカブが疑問の声を上げると。
「うふふ……さすが侯爵様、よくご存じね。そうよ、これは我がファランクス王国自治魔導士評議会と国家総合技術省が極秘に開発を進めている第三次
ハンナは半ば狂気に染まった表情でそれに答え、哄笑し出す。
それを聞いたガーランドは驚きつつも、厳しい声でハンナを糾弾する。
「まさか、許可も得ずに持ち出したのではあるまいな? もしそうならば、これは重大な犯罪行為だぞ。処刑されるか、良くても生涯幽閉は免れん」
「うふふふ……そんなのどうでも良いわ。私は、その男を殺せれば良いの。私にこれ以上ない恥辱を味遭わせた、その男さえ殺せればね……」
しかし、ハンナは気に留めることも無さそうに答える。
その顔には、明らかな狂気が張り付いていた。
「……ちょっち、やり過ぎたかな?」
狂気に犯されたハンナの姿を見て、厳が呟くが。
「そんなことないよ。だって、私たちは実験動物みたいな扱いされそうになったんだよ? おしっこ漏らさせたくらい、なんてことないよ」
「……そうだよな。アイツの方がもっと酷い事を俺たちにしようとしてたんだよな」
カブの冷静な指摘に、なるほどと納得する。
「じゃあ、とっとと制圧しちまうか。マリーが怯えてるし」
「そうだね、マリーを怖がらせた報いを受けさせないとね」
「何はともあれ、場所替えるか」
「了解」
そして厳とカブは頷き合い。
カブは一瞬でバイク形態へと変化し、厳はカブに飛び乗るとアクセルを全開にして走り出した。
「ほーれ鬼さんこちら、ここまでおいで~!」
軽くホイルスピンしたカブは、厳の軽い煽りを残してG型機械生命体が空けた壁の大穴から廊下に飛び出して走り去る。
「え……? ま、待ちなさい!! ゲパルツⅢ、変形して奴らを追うのよ!!」
突然逃げ出した厳たちに、一瞬呆気に取られたハンナだったが、慌てて指輪に向かって命令を叫ぶ。それを受け、G型機械生命体——ゲパルツⅢもバイク形態に変形し、ハンナが跨りしがみ付いた。
その直後、猛烈なホイールスピンをした後にウイリー状態となったゲパルツⅢは壁の大穴から廊下に躍り出たが、勢い余ってかそのまま廊下の壁もぶち抜いて屋外へと飛び出し、落下していく。
と、走り去ったと見せ掛け、廊下に出て直ぐの所で待ち伏せていた厳とカブは落ちて行くゲパルツⅢを目撃し、顔を見合わせた。
「……うむ、落ちたな」
「全然コントロール出来てないよね。どんな仕組みなんだろ?」
「さて、な。だが、きっと禄でもない装置に決まってる。お前に付けた、あの力が出なくなるような装置を発展させたようなヤツだろ。それにしても……」
厳はカブに答えながら、バイク形態に変化したゲパルツⅢの姿を思い出す。
「まさかのドゥカかよ……どうりで見覚えの有る赤なわけだぜ……」
そう、その姿は情熱の赤を身に纏ったイタリアン・モーターサイクル。
ドゥカティ・900SSのものであった。
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