ルポ・12:温泉☆欲情

「そろそろ着くのです!」


 飛び立ってから30分ほど経った頃。


「んあ?」


 もう空を飛ぶのにも慣れてしまったか、うつらうつらと居眠りしていた厳はピュアの声に目を覚ました。

 そして、眼下に広がる光景に、寝ぼけ眼も速攻で開いていく。


「おお……!}


 いつの間にか大分高度が下がっており、目の前には断崖の壁。

 そして、そこには一筋の滝が落ちていて。


「すげえ、マジで湯の滝だ!」


 その滝と、流れる川からは濛々とした湯気が上がり、嗅ぎ覚えのある硫黄の香りが漂っていたのだ。


「ふっふ~ん! どうですか!」

「ああ、すごいなこれは。こんなデカい温泉河川は見たことないよ」


 自慢げなピュアの声に応える厳。

 厳が前の世界……地球で見たこと、行ったことがあるいくつかの湯の川とは比べ物にならない規模である。


「で、ピュアの隠れ家ってのはどのあたりなんだ?」


 滝を含め、眼下に流れる川の全てが温泉なのだから、どこで降りても温泉を堪能できるのは間違いない。

 しかし、隠れ家と言うからには何か面白そうな仕掛けが有るのではないかと厳は期待する。


「もう少しですよ……あ、あそこです!」

「おお!」


 そして、その期待は裏切られること無く。


「渓谷みたいになった場所もあるんだな……って、小屋が有るぞ」


 他の場所よりも、少し樹海の木が深くなった場所に隠された所へ、ピュアはスイーッと滑空しつつ器用に入り込んでいく。


 すると、そこには小さな渓谷っぽくなった河原と、そのほとりに立つ小屋、小さな滝、流れが緩やかになっていかにも深そうな淵があった。


「ここがピュアの隠れ家その3なのです!」


 小屋のそばに降り立ったピュアは、自慢げに巨大な胸を張る。


「へえ~、これは確かに見事な隠れ家だわ」


 厳は、思っていたよりもずっと立派に隠れ家しているこの場所に、感嘆の声を上げた。


「ところで、あの小屋はなんなんだ? もしかして、誰かが使っているんじゃないのか?」


 そんな厳の疑問に、ピュアは可愛らしく首を傾げつつ


「ああ、どっかから逃げて来た人間が建てて住んでいたので、巣に持ち帰って交尾した後美味しく食べましたよ」


 とても楽しそうな声で、とんでもなく不穏な答えを返してきた。


「……ソーデスカ」


 無邪気に恐怖の返事をくれたピュアに対して一瞬固まった厳だったが、まあ今更驚くことではないかと気を取り直したがセリフは棒読みである。


「あ、でもその頃のピュアはまだ交尾が出来る体じゃなかったので、おとなたちの交尾が終わってから食べただけですけどね。雄3匹だったので、みんなで食べたらあっと言う間に無くなってしまったのですよ」

「もーいいがら! そんな追加情報欲しくねーがら!!」


 さらに重ねられる恐怖の情報に、厳は地面に突っ伏しながら突っ込んでしまう。

 その時、厳は巣で感じた疑問をいくつか思い出し、ピュアに質問することにした。


「ところでさ……あれっ?」


 よいしょ、と立ち上がりつつピュアに声を掛けた厳だったが、僅かな間にピュアの姿が見えなくなっている。


「あれ? おいピュア? どこに行ったんだ?」


 周囲を見まわし、声を掛けつつピュアを探す厳。すると……


「ぷっはあ!! 気持ちいいのです!!」


 ザバーッ、という音と共にピュアが淵の中から飛び出して来たので。


「うわあっ!? びっくりした!!」


 厳は思うさま驚き、どってんと尻もちをついて転がってしまった。


「あっははは! 厳が転がったのです!!」


 何が楽しいのか、大笑いしつつ厳のもとへと飛んで来るピュア。


「早く厳も入るのです! 気持ちいいのですよ!」


 そう言いつつ、ピュアはひっくり返った厳の手をぐいぐいと引っ張る。


「ちょっと待てってば! ツナギ脱がないと濡れちまうだ……ろ……」


 そう言いかけて、厳は気付いた。

 ピュアのビッグ巨大マーベラスおっぱいの、頂点を隠していた羽毛がなくなり、桜色のものが姿を現していることに。


「Oh……MARUMIE!!」


 いくら、ピュアたちハルピュイアがほとんど裸に近い恰好をしているとはいえ、普段は羽毛で隠されていたCHIKUBIが露わになっていれば、その視覚的過激さは普段とは比較にならない。


 厳は、すくすくと元気に育つ息子を制御しようと理性と道徳心を総動員したのだが。


「なに変な事言ってるのですか? 早く厳もおんせんに入るのです!!」


 ガバ、どピュアに抱き着かれ。


「あっ待って! せめてツナギを脱がせてごばがばぁっ!?」


 あっという間に、心地好い温度の淵へとダイブさせられたのであった。



「ったくもう……」


 ビショ濡れになってしまったツナギと下着をついでとばかりにジャブジャブと洗濯してから手近な木の枝に干し、厳は改めてゆっくりと温泉淵に浸かる。


「あ”~……いやこりゃ極楽だわ~」


 温度は適温。湯量は豊富なんてレベルではなく、さらに常時流れている。これが本当のかけ流し温泉である。

 淵の奥はかなりの深さらしく、ピュアはキャッキャとはしゃぎながら潜ったり飛び出したり、飛び込んだりしている。


「こんなにゆっくり温泉に入るなんて久しぶりだなぁ……」


 前の世界では、一人気ままな仕事をしていたとはいえ、なんだかんだで忙しく。

 たまの休みに温泉ツーリングと洒落込んでも、浸かりながら考えることは次の修理のことであった。


「……いろんな仕事を放り出して来ちまったなあ」


 厳の工房の常連たちや、修理物を預かっている顧客。それに、数少ない友人たちは突然失踪した厳を探しているだろうか。


「元の世界、か……」


 厳が落ちた場所の高さは、正確に知る術は無いが相当な高さである。

 ピュアたちハルピュイアでも上がることができない高所。


「いや待てよ……」


 厳ははた、と思い出す。


「そう言えば、マギーが何とか言ってたような……」


 ピュアに救われ、巣にお持ち帰りされた夜。

 マギーとの会話の中で、何か気になる言葉を聞いた覚えがあった。


「そうだ、確か……」


 マギーは言っていた。


『そんな所まで上がれる者はドラゴンの一部と、F型機械生命体エフ・メカニクスだけだろうな』


 と。


「ドラゴン、か……」


 F型機械生命体エフ・メカニクスが協力してくれるかどうかは解らないが、マギーはこうも言っていた。


偉大なるヘルツドラゴンを始めいくつかの高位種族ヘルツ・シュタメンの長に逢いに行ってもらわねばならん』


「ヘルツ、ってのは偉大とか高位とかそんな意味だったよな。高位とか言われるドラゴンなら、あの高さまで上がれるんじゃないか?」


 そうすれば、元の世界に帰れるかもしれない。

 そう思い至った厳はガバ、と立ち上がり掛けるが。


「待てよ……」


 あそこまで上がっても、ドアが残っているとは限らない。いやむしろ、無くなって居る可能性のほうが圧倒的に高そうだ。


「……まあ、もうあきらめるか。それに……」


 厳は再び首まで湯に浸かり、いつの間にか静かになっているピュアの行方を捜す。と、淵の中央くらいに仰向けに浮かびつつ、ふんふ~ん、と鼻歌を奏でている。


「おーいピュア、ちょっとこっちに来いよ」


 厳が声を掛けると、ピュアはちゃぽん、と湯の中に潜り。


「なんですかー?」


 少ししてから、厳の目の前にざばあっと、浮上して来た。


「おお……!」


 首だけ出して温泉に浸かった厳の前に立ち上がり、上から厳を見下ろす格好になっているピュア。

 つまり、厳の目と鼻の先にはピュアの秘密の場所が在り。

 上を見上げれば、そこには隠すものが無くなったマーベラス・パイがたゆんと揺れている。


「……なあ、スケベしようやあ……」


 厳はピュアに何かを聞こうとしていたことも忘れ、ニチャアとイヤらしい微笑みを浮かべ、エロ漫画のスケベオヤジそのもののセリフを吐いた。


「? すけべって何ですか?」


 ピュアが、その名の通りのピュアな反応を見せることにより厳のリビドーが限界突破する。


「交尾しょうってことだよ!!」


 厳はそう言いつつ、ピュアの手を優しく引っ張ってピュアを自分の足の上に座らせる。


「あ……」


 ピュアは抵抗することもなく厳の上に座り込み。

 二人は対面状態となり、厳の目の前にはピュアのマーベラス・パイがぷるるんと現れた。


「もう辛抱たまらん!」


 いい歳こいたおっさんが、赤ちゃんのようにピュアの胸にしゃぶり付く。

 そう、例え50を目前にしようが、おっぱいの前に男は赤ん坊に返るのだ。

 どんなに男が偉ぶっても、おっぱいには絶対敵わないのである。


「やん! 焦っちゃダメなのですぅ!」


 ピュアはビクリ、と体を震わせると。


「ふふ、ゲン可愛いのです……」


 そう呟きつつ、優しく厳の頭を撫でる。


 そしてそのまま、一人と一羽は一つになるのであった。







 

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