ルポ・6:メカニクスとは
「……」
「……」
何やら深く考え込み、マギーが黙り込んでからしばらくすると。
「……ンゴゴゴゴ」
マギーの胸を凝視していた厳が、ゲンドウ・スタイルのまま居眠りに移行した。
「む……眠ってしまったか。まあ疲れているだろうからな、無理もないが……」
厳の半分いびきのような寝息で我に返ったマギーは苦笑しつつも、厳を起こそうと声を掛ける。
「おい、ゲン。悪いが、もう少し話がしたいから起きてくれ」
「う~ん……そうか、この世界はおっぱいで出来ているのか。ブラーヴォ。ハレルヤ。ファンタスティック……俺は人間を止めるぞ、マギー……」
「……どんな夢を見ているのだ、お前は」
寝惚け状態でキテレツな妄言を口走る厳に呆れつつ、マギーは右手を伸ばして人差し指の爪で厳の腕を突く。
「んほおっ!?」
すると、厳はビクリ、と体を跳ねさせ、奇声を上げながら後ろにひっくり返った。
「ななななな……!?」
その時、厳の肉体はまるで電気ショックでも受けたかのように痺れ、寝惚けていた頭も一瞬で覚醒しており。
「いいいい、今何をしたんだ!?」
数秒ほどで痺れは消えたが、驚きのあまりひっくり返った状態のまま、厳は大声でマギーに誰何した。
「ああ、まあちょっとした目覚ましだ。眠気は取れただろう?」
そう言われた厳は、起き上がりつつ体の各部を確認するが、痺れや不快感などは一切残っておらず、床に打ち付けた背中も厚く敷かれた枯れ草のお陰か痛めてはいないようだ。
「……ピュアの手爪からは媚毒? だかが出るようだが、マギーの手爪からは目覚ましの毒でも出るのか?」
まさか、個体によって分泌される毒が違うのだろうか、などと考えつつ厳が尋ねると。
「いや、私の爪からも媚毒は出るし、ピュアや他の者の爪からも覚醒毒……今お前に打ったものは出る。どの爪からどんな毒を出すのかは自由に選べるのだ」
そう、ケロっとした表情で答えられて厳は戦慄する。そして。
「……もしかして、致死性の毒とかも出せるのか?」
恐る恐るそう聞いてみると、マギーはニッコリと微笑みながら
「もちろんだ」
そう、あっけらかんと答えるのだった。
(もうどうにでもな~れ)
それを聞いた厳は良い笑顔で
「話を続けるぞ? まだいくつか聞きたいことがあるからな」
「……ああ、なんでも聞いてくれ」
それからいくつか、マギーから厳の年齢や家族構成、仕事などの質問が続き。
「それでは、現在つがいの雌は居ないのだな?」
「……ああ、つがいとか雌とか言われるとちょっと抵抗有るが、今は嫁も恋人もいない」
「そうか……」
そこでまた、マギーの質問が途絶えた。
「もう良いのか?」
「そうだな……とりあえず、聞きたいことは聞けたと思う。お前が聞きたい事の整理がついたのなら、質問してもらって構わんぞ」
「……じゃあ、とりあえず」
そして、今度は厳の質問タイムとなった。
「さっきピュアがこの世界……ギガ=ラニカにあらゆるものの魂が堕ちて来る、と言っていたが、それはどういう意味なんだ?」
「……そのままの意味、としか言いようがないな。ただし、その概念を理解している者は非常に少なく、我々ミッタハルピュイアではピュアと私くらいだ。他の種族……人間や亜人、魔人、魔物については解らんが、
「そのままの意味、か……」
(それはつまり、地球や他の異世界で死んだモノの魂の受け皿が、このギガ=ラニカと言うことなのか?)
厳の中で、さらなる疑問が沸き上がる。が、更に突っ込んで聞いていったとしても、これ以上の回答は得られないだろうと判断し、とりあえずこの件は置いておくことにした。
「じゃあ、次に……ピュアは、いったい何者なんだ? とても普通のハルピュイアとは思えないんだが」
可愛らしくも恐ろしい、厳の命を救い、そして奪おうとする少女について尋ねる厳。
「ピュアか。あの娘は、我々の『希望』であり『王』となる器を持つ者だ。現在は成長途中のため、『本脳』を眠らせて『仮脳』のみで活動しているが、いずれは『すべての脳』を覚醒させ、『
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 情報量が多すぎて理解が追い付かん!」
ピュアという一個人(?)について尋ねたら、唐突にこの世界を救う
厳は慌ててマギーの話を遮り。
(おまけに、何やら俺について不穏な言葉も聞こえて来たような気がする……)
厄介なことに巻き込まれそうな予感をビンビンに感じ、頭を抱えた。
「少し難しかったか?」
小首を傾げ、可愛いしぐさを見せたマギーが厳を気遣うように訪ねて来る。
「……いや、難しいというか重いというか……ピュアの事もそうだが、まるで俺がこの世界の大事の切っ掛けにでもなりそうな事をキミが言い出したから……」
頭を抱えた状態で上目遣いにマギーを見つつ、厳は声を絞り出す。
「まるでも何も、まさにそう言っているのだが」
さも当然、という風情で断言したマギーに、厳は机の上に突っ伏してしまった。
「勘弁してくれよ~……そんな面倒なことになるのなら、ピュアとエッチしてから喰われちまった方がマシだ……」
そして突っ伏したまま、とてもおっさん臭い表現で情けない弱音を吐く、が。
「何を言っている。えっちと言うのが何かは解らんが、お前にはピュアや私を始め相性が良さそうな者と交尾して種付けしてもらった後、この世界のどこかに存在するピュア以外の二角の英雄と、
だが、マギーはあっけらかんととんでもない事を言い放った。
「はぁ!? いやピュアやマギーたちと交尾するのは全くもって無問題だしむしろこちらからお願いしたい所だが、その後何をしろって!?」
聞き捨てならないマギーの言葉に、厳はガバっと起き上がりつつ叫んでしまう。
「だから、ピュア以外の二角の英雄と、いくつかの高位種族の長に……」
「ん拒否するぅ! こんなワケの解らない世界を、どこにいるかもわからないような連中探してウロチョロするとか、そんな面倒な事やってられるか!」
そして、強固な意志を持って拒否を突き付けた。
「……だが、そうせねばこの世界が終焉を迎えるかもしれないのだぞ?」
「なんだそれ初耳なんだが。それに、知ったことじゃないね。と言うか、キミらハルピュイアも含め、ドラゴンだと何だとか、ヤバそうな連中が跋扈するこの世界で俺みたいな
「ぱんぴー……? が何かは解らんが、ギガ=ラニカで死んだら、神々による魂の審判を受けた後、然るべき場所へ誘われると言われているが……それはともかく、お前ならギガ=ラニカのどこに行っても大丈夫だろう」
「大丈夫って、なんか根拠でも有るんですかねぇ?」
厳は訝しげにマギーを睨めつけつつ誰何した。
「ああ、さっきお前の話を聞いて確信した。お前は口伝にある
だが、マギーは一人で確信に満ちた顔を晒しつつ、厳にとっては意味不明な根拠を述べるばかりである。
「はぁ……。もうマギーが何を言っているのか、俺には全く訳が分からんよ……というか、そうだ。その、メカニクスってのは一体何なんだ?」
厳は深くため息を吐き。
そして、疑問に思いつつも忘れていた単語……『メカニクス』について尋ねる。
「うむ。メカニクスとは、この世界……ギガ=ラニカ由来のものではない素材で構成された、魂と意思を持つ生きた機械の事だ」
「生きた機械だって……?」
しかし、マギーから返された答えに、厳の混乱は深まるばかりであった。
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