ルポ・5:ハルピュイアの憂鬱
「聞きたいことはそれだけか?」
顔を歪めて苦悩する厳に、マギーが尋ねる。
「あ……ああ、他にも有るが、何から聞いていいのか整理が出来なくてな……だから、まずはそっちから俺に聞きたいことを言ってみてくれ」
正直、解らない事だらけで、何をどうしていいのか解らない状態であった厳はそう答えた。
「そうか。ではまず、お前の名前を聞こうか」
「……名前、か。俺の名は、宇賀神 厳だ」
「ウガジンゲン、か。何やら不思議な響きを持った名前だな」
「ん? ああ、すまん。名前はゲン、苗字がウガジンだから、ゲン、もしくはウガジンと呼んでほしい」
マギーの発音が奇妙な事に気付いた厳は、説明を加える。
「苗字? 良く解らんが、名前はゲンでいいのか?」
「あー、苗字の概念がないのか……そうだな、キミの名前はマギーだけなのか?」
「うむ、そうだ。だが通り名はミッタハルピュイアが
「なるほど……」
通り名と言うのは恐らく種族名を加えたものろう。
「もしかして、ミッタと言うのは真ん中って意味か?」
厳は、ミッターがドイツ語で『中央』や『真ん中』などを意味する事を覚えていたので、そう聞いてみた。
「ああ、そうだ。ミッタハルピュイアと言うのは、『この世界の真ん中に棲むハルピュイア』という意味だ」
「解った。じゃあ、それとはちょっと違うが、俺の場合はそのミッタハルピュイアの部分がウガジン、になると思ってくれれば良い。キミらのように言うなら、ウガジンが長のゲン、だな」
「ほう、お前も長なのか」
「あ、ああ」
マギーに尋ねられて、『長』という響きに一瞬ひるんだ厳だったが、
(一人もんとは言え、世帯の長……世帯主には違いないよな!)
と自分を納得させた。
「と言うか、やっぱマギーが長なのか。あと、ミッタハルピュイアってことは、他の地域にもハルピュイアが居るってことか」
「そうだ。ミッタハルピュイアの中では私が最も長く生きているのでな。それと、ほとんど交流はなく、未だ存在しているかどうかは解らんが、ハルピュイア族は他に3族居るはずだ」
「なるほど……」
マギーの説明に、厳は頷く。
ハルピュイアについて、他の3族は何ハルピュイアと言うのか、なぜ存在しているかどうか解らないのか等、疑問が次々と湧いてくる。
(だけど、それをいちいち尋ねていたら話が進まないな……とりあえずは、マギーの質問に答えていく方がいいだろう)
そう、判断した厳は、マギーに続きを促すことにした。
「ほかに聞きたいことはなんだ?」
それを受け、マギーは一つ頷くと質問を重ねる。
「では、お前はなぜニシル岩山……我々が棲んでいるこの山の上から落ちて来たのだ? あと、お前は山頂から落ちて来たのか?」
「……まず、俺が堕ちて来たのは山頂……この山の頂上ではなくて、山の途中にある突き出した岩の上からだ。恐らく、地面からこの巣までの高さの100倍はあったと思う」
厳は、先ほどマギーが『自分が生まれてから200周期』と言っていた事を考慮しつつそう答える。
「100倍、か……地面からこの巣まではおよそ100ノルドだから、10000ノルドの高さか。そんな所まで上がれる者はドラゴンの一部と、
(普通に計算は出来るんだな……それと、エフ・メカニクスってなんだろう? メカと言うからは機械なのか? そう言えばドラゴンと戦ってた連中、ヤケにギラギラしてたような……)
またしても気になる単語が出て来たが、とりあえず置いておくことにして。
「なぜ落ちて来たか、について話すにはちょっと長くなるが……良いか?」
ここが、厳が今まで暮らして来た世界と異なる世界……ギガ=ラニカと言う異世界ならば、朝起きてからこれまでの事を話すだけでは足りないはずだ。
「このギガ=ラニカとは全く違う、俺の来た場所……地球、についても話して置きたい」
厳は、この恐ろしくも美しく、高度な知性を持つ種族であるハルピュイアを信用出来るだろうと判断し、包み隠さず話すことにした。
その結果、己が彼女らにとって『価値なし』と判断され、結果喰われたとしても構わない。
何よりもあの美しく可憐、かつダイナマイツ・ボディなピュアに『あんな事良いな♪ ヤレたら良いな♪』な事をして貰った後に喰われ果てるのならば、それは男にとって一片の悔いの無い人生の終焉であるはずだ。
いや、そうに違いない!
厳は、ファンタジーに触れてはこなかったが、バイオレンスな世紀末ものの映画や漫画は大好きなのであった。
それはマニアの域を超えており、一子相伝の秘拳に憧れてとある超マイナーな古武道場に弟子入りし、師範代資格まで習得したほどである。
「……いきなり右腕を突き上げてどうしたのだ?」
「はっ!? す、すまん。つい、とある世紀末覇者の気持ちになってしまって……」
「はぁ?」
唐突に意味不明な言動に出た厳を、訝し気に見詰めるマギー。
もし、とある世紀末覇者が厳の発言を聞いたならば、
『うぬと一緒にするな、この下郎めが!』
とでも吐き捨てられ、厳は汚い花火を経て細切れの肉片に変えられるであろう。
それはさておき。
(それにしても……)
彼女は、ここのハルピュイアで最も年長だと言っていた。が。
(人間で言えば20代後半……どう見ても、30代前半程度にしか見えないよな。それに、ピュアには敵わないにしても、充分以上にダイナマイツ・バディだし肌も綺麗だし……)
マギーはボブカットの様な銀髪と切れ長の瞳を持つ、なんとなく有能な秘書をイメージさせる美人さんである。また、ほとんどのハルピュイアと同様に豊かなバストとヒップに加え、別群のスタイルを併せ持つ。
厳は、気付かれないように振舞いつつもマギーの各部に視線を飛ばして観察し、鼻の下を伸ばした。
(結論。満場一致で良い女と判断する! 土下座してでもお願いしたい……)
そして、とんでもなく下種な結論を導き出して満足げに頷いた。
「……どうやら私に発情したようだな。交尾するのは構わないが、まだ聞きたいことも残っているし、何より今交尾してしまったらピュアが荒れるだろうから、我慢してほしいのだが」
だがしかし。厳の
「はぅ!? べ、べつに発情なんかしてないし?」
「……そうか。まあそれよりも、長くなっても構わないから、お前がなぜニシル岩山の高い場所から落ちて来たのか、すべて話してくれ」
マギーに促され、顔を真っ赤にした厳はそれを誤魔化すように話し出した。
「俺がこのギガ=ラニカに来てしまう前に住んでいた世界は地球と言って……」
大まかな地球の説明、地球に住む人間や動物たちの事、ギガ=ラニカのような異世界に対する認識……そして、朝起きてからピュアに拾われるまでの事。
マギーが用意してくれた軽食と飲み物を摘まみながら、1時間以上は話していただろうか。
厳が説明を終えると。
「……そうか、やはりお前はあの……」
マギーはそう呟くと、何やら深く考え込み始めた。
ちなみに、軽食は野ブタ肉と白菜的・ジャガイモ的なものの煮込みで、味付けは塩だけであったが野ブタの出汁が利いていてシンプルに美味く。
飲み物はレモングラスのような香りのするハーブ・ティーらしきもので、これも清涼感があり中々の美味であった。
「……」
「……」
そして、静寂が場を支配する。
(なにやら、憂鬱そうな雰囲気になっちまったな……)
厳は、
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