第一章
薄暗い森の中で
――どうして、どうして。
真っ白な頭の中でその言葉だけが繰り返される。
おかしい、ありえない。こんなこと、起こるはずがない。
何度否定したところで目の前の光景は変わらない。
鬱蒼とした森の中は暗く、ランタンの明かりだけが頼りなく揺れている。
静かな森の中で聞こえてくるのは僅かな呼吸音。だがそれもいつ消えてもおかしくない。
「駄目、駄目よ」
縋りつくように抱きしめても、反応は返ってこない。
今手放すと永遠に失われてしまうのではと怯え、湿った服を握りしめた。
「助けて」
震える声で紡がれる懇願に応える人はいない。
ここにいることを知る人は誰もいないのだから当然だ。
――たとえ近くに誰かいたとしても、助けられる人はいなかっただろう。
「助けて」
だけど、ひとりだけ助けられるものを知っていた。
今の今まで忘れていたけど、確かに知っていた。
他の誰も知らないものを、私は知っていた。
「助けて――」
――その名を呼ぶのは、まだ先の話。
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