盗賊紛い 5
社達は四人組となって、一直線のフロアを進み、最奥部まで着いたら、先を確認しながら上のフロアへと階段を登る。
そして、次のフロアに足を踏み入れる度に、部屋の扉を確認して、そこが何階かを調べる。
それを何度か繰り返す。
社達が確認した時と同じく、階段を登っているにも関わらず、フロアの階層としては上下動が一貫していない。そして、同じ階数はまだ出てきていない。
「どう思う?」
社は後ろを歩く燐音に向かって問う。
「そうね……どうやら、無限ループしているわけではないみたいだろうけれども」
「それ以上は分からんか、まぁそうだな……不思議のダンジョンってわけではないのは有り難いかもしれんなー」
「……不思議のダンジョンなら、ちゃんと登れば上に上がると思う」
琥珀に向かって、黒玉が言う。
こうして進んでいるにも関わらず緊張感が薄めなのは、やはり肉玉が襲ってこないのが大きいと言えるだろうか。
下のフロアに降りようとしなければ、肉玉は現れない。
――これは、どう取るべきなのだ?
社は考える。
経験則から言っても、悪霊の行動パターンが無軌道ということはほぼ無い。
むしろ生身の人間以上に、何らかの行動パターンに縛られているということばかりだ。
それは悪霊が、元になった人間の遺志に縛られている事が多いからなのだろう。そして、生者と異なり、後から何かが加えられることもそうそう無い。
結果として、まるで行動をプログラミングされた機械であるかのように振る舞うのだ。
そういう点から見て、あの肉玉とこのマンションは一体何をしているのだろうか?
――下への進行を妨害している……?
素直に行動を読み取れば、そういう事になる。
或いは、上へと誘導されていると。
そうであるならば、このまま上に向かって良いものなのだろうか――と考えてしまう。誘導に逆らって、下へ行くべきなのかもしれない。
「社」
「なんだ」
つぶやくように言う琥珀に、社は返す。
「何階までこのマンションが作られていたか、覚えているか?」
起伏のない、直線だけの階層を進みながら、琥珀は言う。
「ちなみに私は知らないわ」
「……燐音は黙ってて」
「つらい」
勝手に会話に混ざろうとして出来ていない後ろの二人、それを半目で見て琥珀は言う。
「あいつらいい空気吸ってるな……それはそれとして、この階で使い切ったぞ」
「なるほど」
今まで同じ数字は出てこなかった。
ならば、次に出る階層の数字は幾つになるのか。
「ループして一度使った階層に着くのか、それとも……」
「最上階に着くのか」
琥珀に向かってそう言う社。
「行けば分かるわ」
「……うん」
それに対して、燐音と琥珀が言った。
直接的に過ぎる考え方では有るものの、それだけに間違い無く状況を変えることは出来る。
そうこうしているうちに、このフロアの端……つまり、階段の前まで、社達四人は辿り着いていた。
「行くぞ」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか鮫が出るか」
「……さめ?」
琥珀の言葉に、黒玉が小首を傾げた。
そんな様子をよそに、社を先頭にして、四人は最後の階段を一歩一歩登っていく。
その先に広がっていたのは、開け放たれた野外――屋上だった。
「マンションは建設途中だし、まだこんな風に完成しているわけはないわね」
様子を見て、燐音は言う。
「一応、建設途中要素は有るようだがな」
社は言いながら、四方を見回す。この屋上のようなフロアは、その縁に当たる部分から無数の鉄骨が生えており、それがフェンスの代わりとなっているようだった。
「しかし、着いたは良いものの、鬼も蛇も――」
「……きた」
琥珀の言葉に答えるでもなく、黒玉が空を見上げながら言う。
それを見て、他の三人も上を見た。そして――
「琥珀!」
「クロ」
社と燐音の声が揃う。同時に、琥珀と黒玉が光と変じて、二人に纏われる。
『
『……
現れたのは、二機の霊鎧だ。
黒に琥珀の霊鎧、社が纏うブラッドアンバー。
そして、闇を塗り固めたかのような漆黒の霊鎧。ブラッドアンバーに比べると細身、そして女性的な体型をしたそれが、燐音が纏うジェットスパイダーだった。
同調して後、即座に二人はその場から飛び退く。
一瞬遅れて、衝撃と轟音。それは、二人が先まで居た場所に落ちてきた肉玉が生み出したものだった。
『ステージギミックだと思ったらボスキャラだったでござるの巻、って感じだな!』
琥珀は言いながら、ブラッドアンバーの下腕部に、魔弾タスラムの射出機を形成する。
その様子を確認して、燐音/ジェットスパイダーが言う。
「射撃が得意なら、援護をお願いできるかしら。クロ」
『……うん。
黒玉の言葉と同時に、ジェットスパイダーの背中から、二本の腕――作業用ロボットのようなアームが展開された。
蜘蛛、の名の通り、ジェットスパイダーには、
その展開された二本の腕と、通常の二本の腕、合計四本の腕、全てに日本刀が握られていた。
ただの日本刀ではない。刀身がまるで高熱を放っているかのように、周囲の空気が揺らめいていた。
妖刀ムラマサ――刀工、千子村正が打った刀は、江戸時代に徳川家に仇為したことから、妖刀と呼ばれた――とされている。
千子村正自身に徳川幕府に含むところが有るわけではないし、徳川家の重臣や家康本人が村正やその系譜の刀を使ったり受け渡したりもしており、妖刀というのははっきり言って迷信、風説の類に過ぎない。
だが、妖刀として語られたというのは事実であるし、その事実がが
その
「勝手な事を……!」
言いながら、社は半身になって、魔弾タスラムを装備した右腕を肉玉に向ける。
発射。
巨大な肉玉へと吸い込まれていく魔弾の群れ。それを背景に、黒い旋風と化したジェットスパイダーは、肉玉に接近する。
最接近した瞬間、四本の妖刀ムラマサが同時に振り下ろされる。
四閃が一閃として肉に飲み込まれる。嫌な音を立てて、肉が裂けて血が弾ける。
だが――
「効いてるようには見えないわね」
燐音の言葉の通り。
妖刀ムラマサの切れ味に陰りはない。障子紙でも裂いたかのように、抵抗一つなく肉玉は切られた。
しかし、浅い。
人間ならば両断出来るほどの深手でも、この肉玉にとっては皮一枚といったところだろうか。ダメージを受けているわけではなさそうだ。
その証拠に――
ぐらり、と肉玉が揺れる。
「あら」
それを見て、ジェットスパイダーは横に跳躍する。身軽だからなのか、ブラッドアンバーに比べるとその動きは大分早い。
揺れた肉玉は、そのまま転がり始める。その軌道上には、ブラッドアンバーの姿が有った。
「く……」
続けて魔弾を撃ち込むブラッドアンバーだが、それで肉玉の動きが遅くなる様子は無い。
ならば――
「受け止める! 琥珀!」
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