盗賊紛い 4
「なるほど、その娘が黒玉の今の使い手かー」
「……そう、長谷部 燐音」
小柄な少女――黒玉は、ぼそり、と零すように言う。
表情は変わらず、声色も単調。見た目も相まって、人形めいていた。
――まぁ、そっちのほうが自然なのかもしれない。
琥珀を一度見てから、社は思う。
琥珀の姉妹機――と本人が言っていたのが事実なら、この黒玉も霊鎧であるということになる。
そしてその彼女を纏うのが――
「そっちの娘も可愛いけど、うちのクロの方が可愛いわね」
妙に得意げな学生服の少女――燐音だった。
「え、あ、そうか?」
「そうでしょう?」
今それは重要な事なんだろうか、と社は思わざるを得ない。
「そんな事よりも」
「そんな事。私のクロを。そんな事」
「五七調で言うな。こんな所に霊鎧連れで着ているって事は、お前も拝み屋の類いか?」
半ばうんざりしながら言う社に、燐音は頷いた。
「そうね、フリーランスでやってるわ」
「なら、その学生服はコスプレか?」
「コスプレして仕事に来るとか、私を何だと思ってるの?」
「……コスプレじゃなかったら余計正気を疑うが」
「正装で来るのに、なにか問題が有るっていうの? 葬式にだって、学生服で出るのよ」
腕を組んで、あまりにも自信満々に言われると、もしかしたらそうなのかもしれないという気分に社もなってくる。
「そういうあなたも、同業者なの?」
社に向かって燐音は言う。
「まぁ、そんなものだ」
「で、こんな所にわざわざやってきた目的は?」
「言うまでもないが、この異界の解除だ」
「なるほどね」
言って、燐音は頷く。ただし、その視線は旧交を温めている霊鎧少女二人の方に向けられていた。
「可愛い×可愛い。無敵ね……」
「今言うべきことか、それ」
「今以外にいつ言えばいいと思うの? 馬鹿なの?」
言いながら、燐音は取り出したスマートフォンで二人の写真を撮っていた。
これはもう好きにやらせてから、続きを話そう――と半目になって社は黙ることにする。それを知ってか知らずか、二、三回画面にタッチして写真を撮ると、燐音は向き直ってきた。
「――重大事だったから仕方ないわね」
「もうそれでいい。で、俺達よりも先にここに来たということは、情報も多く持っていると思うんだが」
「まぁ、そうね。とりあえず、あの肉玉についてとか」
「それは聞かなくちゃちゃならないところだな」
腕を組み、背中を壁に預けながら燐音は言う。
「あれは、事故の被害者の悪霊ね」
「なるほど」
社は事故の内容を思い出す。落ちてきた部材に潰された者と、高所から落下した者。なるほど、巻き込まれた複数人は見事な挽き肉になった事だろう。
「私達が見たところだと、前の階層に戻ろうとすると襲ってくる……って感じだったわ」
「確かにそうだったな」
「その反面、やり過ごすこと自体は難しくないみたいだけれども……」
と言って、燐音は視線を自分達が出てきた部屋の扉へと向ける。
「なるほど、その部屋に入ってやり過ごしたと」
「そういうことね。幾らなんでも、この一直線の通路で、あの巨大な肉玉を相手にするのは難しいもの」
「霊鎧があっても、か」
「ある程度の広さがあれば別よ。でも、こんなところで戦ったら、クロの肌に傷がつくわ」
「……なるほど」
燐音の相棒――あの小柄な黒玉という少女も、琥珀と同じ霊鎧である。ならば、琥珀と同じように鎧として身に纏うことも、当然可能なはずだ。
それで傷がつくのが嫌だ、というのは鎧の扱いとしてどうなんだ、と社としては思わないでもないが、いちいちツッコむとこの娘は話が長くなりそうなので、止めることにする。
「そっちは、あの肉玉からどうやって逃げたの?」
「……走って」
「……そう」
やや、居たたまれない空気が流れる。それを流すためにも、社は口を開いた。
「俺達は可能な限り上を目指してみるつもりだが、お前達はどうするつもりだ?」
「そうね……ついて行かせて貰うわ。目的が同じなら、その方がよほど良いでしょう?」
「霊鎧が二つ有るなら、力押しも可能になるだろうしな。助かる」
「と言っても、結局この狭さじゃ、あの肉玉の相手は無理でしょうけれどもね」
「それもそうだな」
前のフロアもそうだったが、このフロアも一直線の通路の両脇に部屋の扉が並んでいるだけで、戦闘が可能になるスペースは無い。
燐音は背中を壁に預けたまま、黒玉に首を向ける。
「行きましょう、クロ」
「……分かった」
こくりと頷いて、てくてくと燐音の元まで黒玉が歩いてくる。
「俺達も行くぞ」
「分かった。で、なんとかなりそうなのか、社?」
「なるようになる」
同じく、ゆっくりと歩いて戻ってきた琥珀に向かって、社も言う。
「来たら?」
少し先で止まっている燐音が、そんな社達を見て言う。
「先に行ってもらってもいいんだが」
「嫌よ。露払いはお願いするわ」
さも、当然とばかりに言う燐音。どうにも、基本的に面の皮が厚いようだ――と社には見える。
そんな燐音を見て、琥珀は言う。
「やれやれ……まぁ、黒玉よりは私のほうが装甲は厚いし、盾になってやろうじゃないか」
「……お願い」
黒玉が言ったのを聞いて、社は溜息を吐く。
「行くぞ」
言って、立ち止まった燐音と黒玉の前へと、社と琥珀は歩き出した。
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