第6話 ケチャップ・ケチャップ

あれからがらっぱアリーナを後にして、繁華街で見つけたハンバーガー屋さん“ケチャップ・ケチャップ”に来ていた。まさか、午後7時までがらっぱアリーナに滞在するとは思わなかった。でも、県内で有名な二人と試合ができたのは、わざわざ残って試合をする価値があるほどの大収穫だ。これで俺たちの現時点の実力が分かった。

到底今の俺たちでは優勝することなどできない、これは一刻も早くメンバーを集めて本格的に練習をしたいものだと痛感した。


「私は腹ペコセットお願いしまーす」

「me too!ドリンクはコーラのLサイズでお願いしまーす」

「そうだった、私もコーラのLサイズ・・・後ポテトは大盛で」

「私はポテトXLの大盛、やっぱり別メニューでサラダとナゲットもお願いでーす」

「ずるい、おじさん私も同じで」


どれだけ腹が減っているのか、クレアと美里はどんどんメニュー表を見ながら注文をしていた。


「会計は2500円で・・・学割を発動して、1800円だ、“野口 英世のぐち ひでよ千円紙幣せんえんしへい)”1枚と、“きり五百円玉ごひゃくえんだま)”1枚、“桜花おうか百円玉ひゃくえんだま)”3枚になります」


白いコック帽子を被り、ケチャップの絵が描いてあるエプロンを着た、おじちゃんがドスの効かせた声で言ってくる。


「あっ、お会計はあの人が払います」

「出番だ玉ちゃん、今日はごちそう様になります」

「ふざけんな、人の金だからってガンガン頼みやがって、少しは遠慮えんりょしろ」


財布を出しながらレジに向かうと黒霧さんが、まだ注文を終えていなかった。というか、最初から頼む気が無いのか離れた場所に座っていた。


「黒霧さんは何か食べないの?」

「ええ、遠慮しておくわ・・・知り合ったばかりの人から奢ってもらうなんて、申し訳ないわ」

「気にするな、こういうときは素直に乗っかった方が、得だぜ」

「玉ちゃん、舞には優しいね」

「私たちと接する態度が大違いだ・・・カッコつけめ」

「うるさい、頼んだ人は座って大人しく待ってろ」


二人はまだぶつぶつと何か言っているが、座席を選びに店内の奥に歩いて行った。


「さあ、一緒に頼もう」

「分かった、お言葉に甘えて頂くわ」


レジに近づきメニューを見る黒霧さんはデザートのページを見て、チョコアイスを注文した。


「すみません、俺はざくぎりパインパフェを一つお願いします。全部、会計は一緒で」


店長さんはレジスターをカタカタと押して会計していく、途中顎鬚を触り、メニューとレジスター交互に見ながら入力していく。


「チョコに・・・パイン・・・えーっと・・・合計はさっきのと合わせて、3800円になります。一応、高校生と分かるために身分証を見せろ」


黒霧さんと俺はそれぞれ学生証を出して、店長さんに見せる。美里のクレアのときはそんなことを言ってなかったのに、なぜ俺たちには見せろと言ってきたのか分らない。そんな、考えをしていたのが顔に出ており、店長さんにバレたのか、答えを教えてくれた。


「さっきの賑やかな二人組は、レジに立って学生証を瞬時しゅんじに見せてくれた。元気いっぱいな女子高生だな・・・フフッ、それに比べお前たちは大人びてて、学生服を着ていても、高校生かどうか分らんからな・・・だから一応確認させてもらった。不快にさせてしまったか?」

「いえ、とんでもない・・・身分を確認することは大事ですからねー」


あの二人はとんでもない早さで出していたのか。


「そうだ、ずいぶん前になるが大学生のくせに、高校生と身分を偽った奴がいた。食べに来て来るのは嬉しいが、代金をケチろうと犯罪を犯すなんて悲しいよ。お咎めはしなかったが・・・そこからちゃんと確認するようにしているんだ」


「そんなことがあったんですね。それは大変でしたね」

「私もすぐに出さなくてすみません」

「いいさ、すぐに調理するからあの二人にコーラを持っていきな」


見たことない瓶を冷蔵庫から取り出すと、慣れた手つきで蓋を天井に飛ばす。


カッコ―ン


瓶からシュワシュワなコーラが噴き出し、すぐにこれまた冷えたグラスに氷とコーラを並々注なみなみそそいでストローとふたをつける。そのグラスの大きさは牛乳パックぐらいはある。まるでこれで腹を満たせというぐらい氷少なめでコーラを多く入れる。瓶コーラは計4本開けられた。


「はいよ」


おぼんに乗せられて差し出される。


「ありがとうございます」

「うちは独自に世界中のコーラを探し歩き、アメリカの“ギャリオンコーラ”という炭酸強めのコーラを仕入れている。キンキンにジュースを冷やしてあるから、少量の氷でもかなり冷たいよー」


食材にはかなりこだわっているのか、全く知らない品名だった。しかし、そのコーラの匂いはとても甘く店内に充満するほど強かった。シュワシュワと炭酸が弾ける音が喉を鳴らし俺は、思わずメニューを見てしまった。単品の値段はMサイズで“180円”か、少し高いが飲んでみるか。


「学生割で150円になる。どうする?飲んでみるか?Sサイズなら、小瓶で渡すことになるが、そっちの値段は100円だ。割引魔法で90円になる。お試しならこっちにしておけ、ワンハンドで飲めるから、この店NO.1の売れ筋商品だ」

「じゃあそれでお願いします」

「わたしはLサイズでお願いします」


黒霧さんが間髪入れずに注文する。しかも、一番大きいLサイズって、さっきまでの遠慮はどこにいったんだい。


「お嬢ちゃん、コーラだけなら・・・ポテトとケチャップがが口恋しくなる・・・そして、バーガーのバンズと肉汁たっぷりのパテが最高に合う。次第にコーラ、ポテト、バーガーのループになり、止まらなくなる。見たところ、部活帰りだな・・・小腹も減っている時間帯にはうってつけだ」


おい、このじいさん何か、商売してないか?彼女はチョコだけで良いと言ってたんだ。コーラまで頼ませやがって、払うのは俺だぜ。


「学生割で財布にも優しい、“ケチャップ・ケチャップ”は学生の味方です」


ゴクリ


黒霧さんが唾を飲み込み、お腹をさする。やめろ、頼むんじゃない、俺の財布の心配をしようか?ちっともこの店、財布に優しくねーよ。詐欺だよこの髭爺ひげじじいは・・・


「セットお願いします」

「ありがとうございやーす」

「ざけんな!」


結局6000円になり“樋口 一葉ひぐち いちよう(五千円紙幣)”と1000円札を失った。俺は彼女の正体が段々分かるようになってきた、この黒霧 舞くろきり まいという女子高生は、猫を被っている。真面目で誠実そうだと思ったがあきらかに、腹黒く性格が最悪だ。


「黒霧さん、いや、黒霧・・・何をそんなに頼んでんだ。チョコアイスだけじゃなかったのか?」

「せっかく店長さんがオススメしてくれたんだから、断れなくて・・・それに、玉枝君が遠慮せず頼めって言ったじゃん、確かに得した」

「言葉の綾だろ、一人だけ奢らなかったら俺の気分が悪くなるから言っただけで、察しの良いお前なら分かってくれると思ったが」

「ごめん、全然分からなかった」


謝ってはいるが、その表情は何もかも分かりきっており、悪ーい顔をしていた。


「ほら、嬢ちゃんの分だ・・・さっさとあっちの嬢ちゃんたちに飲ましてやんな、我慢の限界を迎えているぞ」

「遅い、早くそのコーラを持ってこい」

「コーラ、コーラ、コーラを摂取・・・飲みたーい」


ガヤガヤと騒ぎテーブルを叩いて、美女二人がコーラを欲していた。


「ごめんなさい、今持っていくわ」


おぼんを持って二人の場所へ持っていこうとする黒霧。


「おい、まだ話は終わって・・・」

「坊主、終わったことは諦めな・・・お前の負けだ。いいじゃないか、美女3人と食事ができるとすれば“樋口 一葉ひぐち いちよう”以上の価値がある。それに、他人に良いことをすると必ず自分に良いことが返ってくると言うじゃないか。お前は3人に良いことしたんだから、3倍で返ってくるぞ・・・まあ、それがいつかは分からないがなガッハッハハハ」


店長さんにさとされて黒霧を追求するのをやめさせられた。その豪快な笑い方に、怒りもどこかに吹っ飛んでしまい、どうでも良くなった。


「まあ、もともと奢るつもりでいたので良いんですけど、彼女のあの性格にはむかつきますよ」

「確かに、あの黒髪の嬢ちゃんはやり手だな・・・いや、お前たち全員大物になりそうだな・・・」

「そんな、大物だなんて大袈裟ですよ」

「ガッハッハッハッハ、そうかスマン、できるまでそこで待っときな」


店長さんは厨房に行き、フライパンに火をつける。バンズやレタス、トマトにピクルスなど食材を冷蔵庫から取り出し、光輝くナイフでカットしていく。


トントントントントントン


今度は赤くて高級感漂う、お肉をミンチにして力強く捏ねていく。それを焼くのかと思いきや、冷蔵庫にしまって米俵に形成された肉を焼いていく。

(そっちを焼くんだ)


ジュ―――― ジュジュジュ


焼ける音が聞こえてくると言い匂いがしてくる。油がバチバチと飛び跳ねて店内にさらに肉の匂いを広げる。


パラッパラ にゅ――っぷっぷっ


調味料に何かのソースを入れて焼き上げていく。その間に、パンをオーブンに入れてパインをカットしていく。

(あれは俺が頼んだパフェ)

綺麗にナイフで皮を剥きみずみずしい黄色の果肉が現れる。大きなパフェのグラスにバニラアイス、チョコアイス、ピンクのアイスを入れていく。ケーキに生クリーム、桃、イチゴ、パインを次々に入れていく。

(あれだけ入れて1000円は奮発しすぎじゃ)

心配しても次々にデコレートしていき、お菓子ゾーンに突入する。一口チョコにチョコ棒、チョコチップにカラフルチョコを入れていき最後に一番上にアイスを乗せて、ケチャップで猫の顔を描く。

(美味しそー・・・ケチャップ!?)

最後の食材には驚いたが、店長さんはごく普通で至極当然とばかりに、黙々と作業の手を進める。


「坊主、パフェが先にできる・・・レジスターの隣にスプーンと紙ナプキンがあるから、おぼんに乗せて準備してくれないか」

「は、はい」


言われた通りにレジスターの隣にあるケースから、銀の長ーいスプーンと店名がプリントされた紙ナプキンを用意する。


「はい、ざくぎりパインパフェお待ち!付け合わせのポテチと柿ピーは、お口直しだ」


小皿に乗っておぼんに乗せられる。


「分かりました」


そして、キッチンに戻りパテを裏返すと、細長いポテトを油の中にドンドン投入していく。フライヤーは三個あり、それぞれ隔離されてある。右の方にポテト、真ん中の方にナゲットを投入されている状態だ。


「ジャガイモは出水の長島産、ナゲットも出水市の養鶏家さんから仕入れている。うちは地産地消で主に地元の食材を大事にしているんだ。ちなみに、パイナップルは南大隅の農家さんから入手したものだ」

「はえー、こだわりがすごい」


話を聞いているうちに、ハンバーガーが完成した。パテの厚さはかなりあり、レタスやトマトも新鮮、ケチャップとチーズの具合がいい感じに垂れ落ちて、CMのようなバーガーだった。


「はい、腹ペコセット3つお待ち!サラダは特性ドレッシングをかけて食べろと、嬢ちゃんたちに伝えな・・・特にぱっつんと金髪に言うんだ、腹が減ってるから絶対にそのままで食べてしまうぞ。ついてないとかクレームを言われたら堪ったもんじゃない」


店長さんはドレッシングを指でトントンしながら、忠告してくれた。確かにあの二人の暴れようから味よりも、腹を満たせればいいのだろう。さっきから、汚いヤジが飛んでくる。とても、女子高生には思えない。


「さっさと食べさせろ―、お腹すいたー・・・」

「Hurry up!余は腹がペコペコじゃー」

「早く持って来ないかなー・・・あの男・・・使えない」

「うっせー、こっちに来て自分で持っていけ・・・あと黒霧、お前小声で何か言っただろう」

「いいえ、何も言ってないわ。きっと空耳よ」

「嘘つけ、持って来ないかなーの後に、絶対何かいったぞ」

「言いがかりはやめて・・・ポテトが冷めるわ、お願いします持ってきてください」


手を合わせて誠意を見せているのだろうが、目はこれっぽちも誠意は見せていなかった。ムカつくけどこいつも顔が整っていて可愛いな・・・くそ、怒るにも怒れねー。結局、縁呼は三人分のおぼんを運んだ。


「いただきまーす」


全員で手を合わせて食事を楽しむ。


「何これー、ポテト熱々でウマー、塩加減が絶妙すぎる」

「う――――ん、どの店よりも細いこのポテトは初めて―」

「確かに細くてカリッとした食感が美味しわね」


ポテト一つに三人は感動していた。そこからケチャップにつけて味を楽しみながら、ポテトを満喫していた。


「ケチャップとアイスって意外に合うんだなー・・・チョコゾーンもアイスにマッチしてる」


長ーいスプーンを扱うのに苦戦しながら、パフェを解体していく。


「縁呼、それも美味しそうだから一口頂戴」

「いいぞ、アイスが最高にうまいぞ」


美里がポテトでアイスをすくい、器用に一口だけ食べる。


「おお、確かにおいしい・・・甘くなくしつこくない味、もっと頂戴」

「クレアもいただきます」

「ふざけんな、お前たちはデザートの前にメインディッシュを食べろよ」


制止も効かずにポテトをスプーンにアイスを食べられる。クレアに至ってはチョコ棒やパインをガンガン食べている。


「おい、そんなに食べたら俺の分がなくなるだろうが・・・シッシッ、あっち行け」

「何てDFなの、バスケのDFよりも堅い守り、全然食べれなかった」

「亀みたいに丸まって面白ーい」


カシャ カシャカシャカシャカシャ


クレアはスマホをスカートのポケットから素早く取り出し、一瞬を逃さないプロカメラマン並みの執念で、連射しながら俺の姿を撮る。


「撮ってんじゃねー、見せもんじゃないぞ」

「確かにケチャップにとアイスの組み合わせは、当たりね」


黒霧がいつの間にかアイスを食べていた。しかも、コイツはポテトでもなくストローでもなく、俺が使っていたスプーンでアイスを丸々すくい食っていた。


「お前、いつの間に・・・だから遠慮えんりょしろよ」

「失礼な私は反省して遠慮してあげたの・・・だからアイスだけにしたじゃない」


こちらを無視しながら、紙に包んであるバーガーにかじりつく。


「やっぱり、ケチャップが絶品なのね」

「聞けよ」


その後、綺麗に平らげて女子3人はお喋りしながらくつろいでいた。食べるのが一番早かったのがクレアで、右手にバーガー、左手にはポテト、ナゲット、フォークでサラダ、ストローでコーラとリズムよく口に運んでいき、気づいたらおぼんの上には、くしゃくしゃになった包み紙と水滴がつき、空になったグラスだけだった。


「ごちそーさまー」


紙ナプキンで口と手を拭き、俺のパフェをじっと見ているのに気づいたときは、本当に驚いた。餌を見つけた蛇のようにじっと動かずに、首だけがグーっと伸びてきたのだ。


じゅるっ


「じゅるっ、じゃねーよ・・・どんだけ腹が減ってんだよ」

「いいじゃん、スイーツは別腹だよー・・・食べさせろー」

「私にもそれを食わせろ、まだパインを食べていない」

「パインは甘くて絶品だったわ、ぜひ食べておくといいわ」


黒霧が忍者のように俺のグラスからパインを一つ取り、食していた。


「それ、どうやって盗んだ・・・怖ーよ」


ガシッ


大きな手がグラスを掴む。


「玉ちゃんの物はクレアの物、クレアの物はクレアの物・・・私が一番大好きな名言だよ」


ものすごく強い力で引っ張られる。どれだけ食べたいのか、食のパワーを発揮している彼女の力に到底とうてい勝てるわけなく、提案ていあんをすることにした。


「どこのガキ大将だよ。お前もタチ悪いぞ・・・分かった、分かったから、引っ張んな。中身がこぼれてしまう」

「YES!パフェGETだぜ!」

「私はパインをもらう」

「私はそのケーキを食べるわ」


悪魔のような3人にパフェを取られてしまった。こうなるんだったら、こいつらにデザートも頼ませるべきだった。一つのパフェでここまで争うことになるとは、食べ物の力は本当に恐ろしい。俺はしみじみ思い、これからはもっと感謝して食材を残さず大事に食べようと心にちかった。


「だいたい、黒霧お前はチョコアイスもあるんだ。そっちを食えよ・・・見ろ少し溶けてきたるぞ」

「黒霧じゃなく、二人みたいに私も名前で呼んで・・・一人だけ他人みたいで気持ち悪いは」


急に強い口調でお願い?いや、命令を下してきた。

(というか、怖い・・・絶対に怒らしたらヤバい人じゃん)

内心ビクビクの縁呼は、怒らせたらいけないリストに舞を登録して気分をがいさないように、気をつけようと思った。

(もう、初対面の外面の良い彼女はどこにもいないじゃん・・・あー、あの時の彼女は可愛かったなー)


「悪かった、これからはちゃんと舞と呼ぶよ」

「うん、よろしく」

「怒らせたら怖いねー、あれが素なの?」

「そうだよ。私も何度か怒らせたことあるけど・・・ママよりずっと恐いよ。美里も気をつけて」

「へー、まあ関係ないけど」


クレアと美里はコソコソと話して縁呼と同じように、舞のことを恐れたが一瞬だった。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は中囿 美里なかぞの みさと、漢字は大中小だいちゅうしょうちゅうに、くちを書いてそのなか有名人ゆうめいじんゆうれるほうそので、美少女びしょうじょ里芋さといもさとだよ。よろしく」

「ええ、こちらこそよろしく・・・舞って呼んでね」


目を見開いて美里をにらみつける。


「ああ、私のことも美里でいいよ」


こちらもまた目を見開いてにらみ返す。


「ねえねえ、美少女のときに自分を指してたけど、どこにいるの?見当たらないよ」


ナチュラルに挑発をするクレア、その手にはしっかりとパフェのグラスを持っていた。


嗚呼ああーん、喧嘩売ってんの・・・私に決まってんじゃん」

「アハハは、冗談だって・・・ハイ、パイン食べて・・・ア―ン」


パインをすくって美里に口をあげるようにうながす。


「ア――――ン・・・うん、美味い」

「はい、舞もケーキあげる・・・ア―ン」


舞にも口をうながすが恥ずかしがって、なかなか口を開けようとしない。顔は真っ赤になり迷惑そうにクレアを見つめ、やめてくれと伝えているが、全く伝わっていなかった。


「もう、ほら恥ずかしくないから・・・ア――――――ン」


お構いなしに催促してア―ンをさせるクレア。


「あっち向いててくれない」


顔は真っすぐクレアを向いていたが、血走った目が縁呼をとらえて、背筋がこおるほどの冷たい声で命令を通り越して警告してくる。従わなかったら、問答無用で攻撃してくる覚悟をその目に見た。


「押っ忍!」


一礼して後ろを見ると店長さんと目が合う。食器を洗いながらこっちの方を見てたらしく、会釈して店長さんもゆっくり後ろを向いた。


「ア――ン」

「どう、おいしい?」

「ええ、とってもおいしかったわ」


元に戻ると舞は下を向いて、紙ナプキンで口元をいていた。


「じゃあ、あとは私が全部食べるね」

「ああ、全部食べていいぞ・・・俺はこのポテチと柿ピーを食べる」


パリッ パリパリ ポリポリ


食べてびっくり、このポテトチップスは初めての食感だった。何かは分からないが、ブニブニとした食感があり噛み応えがあった。しっかり塩味が効いてところどころモチっとした部分もある。こんなに食感で楽しませてくれるとは、この店は本当に面白い。


「どうした?そんなにニヤけて・・・不気味」


バッ!!!!


立ち上がり後ろを振り向くと、店長さんがこちらをみていた。そして、親指を立てて俺と同じようにニヤついていた。


「さすがに気付いたか、そのポテチも柿ピーも手作りだ。皮と身を若干残して低温でじっくりあげたものだ。柿ピーはワサビ醤油で味付けしてあるから、甘いものと抜群に合う。残さず食ってくれ」

「さすがです。しっかりと完食させていただきます」


席に戻るとすでに悪魔たちが試食していた。小皿の上には食べかす一つ残っておらず、見事に完食されていた。


「お前らー・・・美味かったか」

「最高、食感が確かに楽しいね」

「うん、これはhappyになる」

「ワサビが合うわね」


各々に感想を言って情報を交換していた。


「そうかそうか、それは良かった。俺は柿ピー食べてないがな・・・おかしいよね、頼んだ本人が食べてないって」

「まあまあ、落ち着いてこれを食べるといいわ」


舞がだいぶ溶けたチョコアイスを差し出してきた。後、コーラも半分以上残っているのに俺のおぼんの上に置いてきた。


けぷっ


彼女は聞こえないように、手で口を押えて小さくゲップをして、ぼーっとしてはるか遠くを見つめていた。


「お前、食べ過ぎて自分の頼んだのが入らなくなってんじゃねーかよ」

「遠慮はいらないわ、あなたアイスを欲していたじゃない・・・良かったわね得したじゃない」

「俺のお金なんですけどー、得じゃねーよ。ただの残飯処理ざんぱんしょりじゃないか」

「早く食べろ、眠たくなってきた」

「そうだよ、私家に帰って早くシャワー浴びたい。お婆ちゃんが夜ご飯作って待ってるよ」

「自由か」


本当にこの2人は本能のままに生きているな。腹を満たしたら今度は眠くなってくるとは、赤ちゃんと変わらないな。クレアに関しては夜ご飯も食べる気でいる。この食事は、彼女にとってお菓子みたいなものだろうか、それは体が大きくなるはずだ。


「私は何もしたくないわ」

「お前本当は小食だろ、あきらかに無理してるぞ・・・トイレに行って来たらどうだ?」

「せっかくの食事をリバースすることはできないは、少し休んだら復活するから話かけないで」

「そうかよ」

「舞、大丈夫?私の膝をかしてあげるから横になって」


クレアが強制的に舞を寝かせて膝枕をしてあげる。顔をタオルで覆い、素直に横になる彼女は限界が近かったのだろう、抵抗せずにすんなり受け入れて休んでいた。


――――――午後7時40分、“ケチャップ・ケチャップ店内”


「よし、食べ終わったー・・・さあ、美里帰るぞ、迎えが来た」

「うん、先に出てて・・・入口で待機してて」

「分かった」


女子2人は女子会に夢中になっていたが、帰る準備をして舞をゆっくりと起こし始める。それを確認すると俺は先に店を出ることにした。


「ごちそうさまでした」


店長さんにお礼を言って店内を出る。


「ありがとよ、また寄ってくれ」


外は真っ暗で星がたくさん輝き賑やかだが、この繁華街は店の電気や看板で明るく、人通りも多く、サラリーマンや飲み会の集まりの人などで、もっと賑やかだ。


「さて、帰ろうかな」

「待って美里、まだ連絡先交換してないよ」

「そうだった、はいスマホ」

「舞もスマホ出して」

「スカートの右のポッケに入ってるは、勝手に取っていいわよ」


美里がズボッと手を入れてスマホを取り出す。


ピローン


「よし、これで完了」

「あと、玉ちゃんの連絡先も教えて」

「ああ、いいぞこれが縁呼の連絡先だ」


縁呼の知らないところで、勝手に連絡交換が開催されたことを縁呼は全く知らない。


「ありがとう、ついでにグループに入れちゃおう。練習に誘うときは、玉ちゃんも必要」

「ご飯を食べたいだけでしょう」

「いや、ちゃんと練習してからご飯食べるよ」

「一緒じゃない」

「まあ、後でグループに入れなさい。今、入れたら勝手に連絡交換したことがバレるわよ」

「それもそうだね」


3人はやっと重い腰をあげて、おぼんをレジに返しに行く。


「ごちそうさまでした」

「はい、ありがとうございました。嬢ちゃんたち・・・ワザとあの坊主にちょっかい出してたねー。必要以上に食べ物を奪っていたが、あれはあの坊主の反応が面白くて、楽しくなり止められなかった。違うかい?」


店長さんが3人に質問する。


「そうだよ、正解・・・ビンゴだよ。おじちゃん良く分かったね」

「あれはがいがある・・・いちいち拾ってくれるからな」

「さすが!長年の勘てやつだね」

「ガッハッハ、面白いものを見せてくれたお礼にクーポンをあげよう。次もはそれを

持って来ると良い・・・サービスするよ」


蒼白あおじろいクーポンには、ポテトフリーサイズ無料と書かれていた。それを三人に渡して、縁呼の分は含まれていなかった。


「いいの?ありがとう」

「そこの黒髪の嬢ちゃんは、食べ過ぎたんじゃなく、笑いすぎて腹筋をつったんじゃないかい?ポテトと柿ピーを振り向くまでに食べきったのがツボったと見た」

「ええ、自分たちがいかに馬鹿なことをしているのか、冷静に考えたら笑えてきて、あの反応をするもんだから、噴き出さないように腹筋に力を入れて笑いをこらええすぎたわ」

「確かに怒ると思ったのに、抑えて感想を聞いてきたよね。あれは私も笑いそうになったわ」

「私は自分のももをつねって、石の上にも3年よ」

「ああ、うん?・・・ああ」


我慢と言いたいのだろう、ニュアンスは違うが美里もクレアのボキャブラリーに慣れてきた。


「じゃあ、嬢ちゃんたち・・・また来てくれ」

「はーい、じゃあねーおじさん」


クレアが手を振り挨拶あいさつを交わすと、3人は店を出て縁呼と合流する。


「遅い」

「お待たせ、玉ちゃん。店長さんとお話をしてお礼をしてきたんだよ」

「そうか、それじゃあ俺にもお礼の言葉を言ってもらおうか」

「OH!そうだった、thank you・・・奢ってくれてありがとう」


躊躇なくハグしてきて、思考停止してしまった。女の子特有の甘い匂いがして、良い気持ちになっていたら、大変なことにきづいてしまった。そう、彼女の胸が俺の胸に当たっている。

(ちょ、胸・・・胸が当ってる――――!これは犯罪じゃないよね・・・)


「お、おお、もう伝わったからいいよ、離してくれないか・・・」


一瞬で怒りがスパークして光の速さで消えていった。まだ心臓がドキドキしている。くそー、女子って反則だぜ。


「私からもお礼を言うわ、奢ってくれてありがとう」


肩に手を置いてお礼の言葉を言ってくる。

「おう、礼を言えるぐらいの良心はあったようだな」


必死に興奮を隠し、彼女をつついてやると強烈なカウンターを貰ってしまった。彼女の顔が近づいて来て耳元でささやく。


「鼻の下伸びてるわよ。このムッツリさん」

「なっ!伸びてないわ、ムッツリじゃないわ、もともとこんな顔だ」

(バレてるー・・・この女危険すぎる)

「もう、行くぞ美里・・・そこの駐車場に迎えが来ている」

「うん、じゃあまたね。今日は楽しかったよ二人とも次も会うときは、バスケしよう?」

「いいよ、またダンクで負かしてあげる」

「次はマッチアップして対戦しましょ」

「じゃあな」


2人と別れて俺たちは川内を後にして、さつまに帰る。これから、練習にメンバー集めにと忙しいが、新しい知り合いができて嬉しかった。そんなことを思っていると、車の中で美里がお礼を言ってくる。


「ご飯ごちそうさまです。ふわー・・・ねむ」

「大会に向けた肉体改造だ。これからもたくさんご飯を食べさせてやるから、覚悟しとけ」


隣を見るとすでに爆睡していた。


――――川内の繁華街


「行っちゃたねー、本当に面白い2人だったね?」

「ええ、あんな人たちだとは思わなかったわ」

「そうそう、クレア・・・あなたワザとハグをしたわね」

「バレた?」

「バレバレよ、男子には全然しないのに何であんなことをしたの?」

「ほんのお礼と反応を楽しみたかったから、いやー・・・あたふたして急にどうしていいか分からない玉ちゃん、可愛かったね」

「意外に大胆なことするのね、でも、必死に取り繕う彼の反応は笑えたわ」

「そういうクレアだって、普段男子とは全く話さないよね。彼と最初に話していた時は、三毛猫を被って真面目な女子高生を演じていたけど・・・すぐに本性をだ出してたじゃん・・・もしかして玉ちゃんは、気軽に話せるタイプの人間だった?」

「あの男と話をしているとき男子じゃなく、お母さんと話していた気分になったわ。だから、素の自分をさらけ出しても構わないと思っただけよ」

「そっか、一緒にいて気が楽だったのね。でも、気づいたことがあるんだよね?」

「何、言ってみなさいよ」

「バスケのことで・・・あの二人全く本気を出してなかったよね?」

「本当?」

「うん、玉ちゃんも美里も勘を取り戻すとか言って、ずっと私たちを観察しながらゲームしてたよ。耳がいいから二人の会話が聞こえたんだ・・・絶対に本気なんかだしていない」


クレアは真面目な顔をして説明する。その顔は試合に集中しているときと同じで、嘘なんか言っていないと分かる。舞はそれを感じ取り、ゲームを思い返す。


「そういえば、私がカットしたとき、1本目よりも2本目は何かを探りながら1ON1をしていたような・・・チェックされても笑っていたし」

「何か違和感を覚えるのがあったのね・・・私は、2人が一瞬だけどゲームが始まる前に、殺気を飛ばしてきたから、そのときから警戒をしてたんだ」


思い返すとクレアは、と殺気という言葉を口にしていた。


「何か、プロの暗殺者みたいで怖いね」

「とにかく、次会うときは本気を見れるかもしれない・・・楽しみだなー」

「・・・・・・うん、本当に楽しみになったわ」


夜風に吹かれながら、クレアと舞は帰り道を歩き、家を目指す。

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