第5話 2ON2(鬼と座敷童対金と黒)
軽くシュート練習しながらクレアと美里は、まだご飯の話をしていた。趣味がバスケと食べることと、まさかの一緒だったらしく友情の握手をガッシリと交わし、気が合うもの
「美里のシュート低っ!低すぎてコーヒーを飲みたくなったー」
「驚いた?これが私のシュートだよ。ちなみに私はココアが飲みたい」
意味不明な会話をしながら、二人はガンガン3
クレアのシュートフォームは、軽く膝を曲げてツーハンドのシュートフォームだ。ただ、普通のシュートではなく打点がもの凄く高いのだ。自分のお凸よりも少し上辺りで打ち、190cmの長身にジャンプ力が加わり、体感的には2mぐらいの場所で打つことになる。あの高さで軽くシュートを打たれたら、まず容易にチェックはされないだろう。精度も高くまさにオールラウンダーにふさわしい、才能の持ち主だ。
「ちょっといいかな?」
クレアの才能に関心していると、黒霧さんに声をかけられる。
「いいよ、何かあった?」
「まだ正式に自己紹介をしていなかったなあと思って、今ここで自己紹介するわ。私の名前は“
自分の漢字まで紹介してくれる珍しい自己紹介の仕方に、こちらも合わせないといけないと思い、俺は必死に考えて漢字を思いつく。
「お、俺は“
全く上手いことを言えずに自己紹介を終えてしまった。今になって、冷静に考えると己の知識のなさに恥ずかしくなり、顔が赤くなってきたのがわかる。こんな自己紹介は初めてだったので、新感覚で楽しかった。
「甲虫!さつま町の甲虫学園?何で・・・強豪の高校に行ったんじゃないの?」
「行ってないよー、俺も美里も地元の高校に進学したんだ。バスケは中学3年の全国大会が終わった後に辞めた」
「そんな、あれ程の実力と実績があるのに辞めたのは、もったいない」
「しかたないよ、俺はバスケに飽きて、美里は燃え尽きたんだってさ」
「それじゃあ、何故隣町に来てまでバスケの練習を?」
「それはね・・・」
「
大きな声で美里が割って入ってきた。
「
「そうだ、私たちはその大会に参加して優勝するために、再びバスケを始動させた。大金はがっぽりこの中囿 美里の通帳に頂く」
「独り占めかよ」
「Woooo!最高、あなたたちぶっ飛んでるねー。その大会は各国で行われるけど、どこも優勝するのは難しいよ」
「だからここで練習を・・・」
「そういうこと、ちなみにバスケを始めて1週間も経ってないから、今日はお手柔らかにお願いします」
私が憧れていた人は、高校でバスケをしていなかった。たくさんの大会で探してはいたが・・・なるほど見つからないわけだ。バスケを辞めたと聞いたときはショックを受けたが、それよりもこうして会えて、話していることの方がとても嬉しかった。
「いいわ、それでは今から2
「クレア、あなたはもう準備できた?」
「うん、体はもう温まったよ」
3Pラインに立っていた彼女はそう言いながら、持っていたボールを地面に叩きつけて走り出す。
ドギャッ
リングに向かいジャンプすると軽々と頭がリングを超えて、バスケットボールを右手で
「オッシャー、早く試合始めようよ」
俺と美里は普通にダンクする彼女に驚き、立ち尽くしていた。
「見た?今の・・・スッゲー、ダンクだー」
「あぁ、これは超新星と言われるはずだ。俺たち勝てるかな?」
「それは、勝ちに行くでしょ。勝負ごとに情けはいらない、どんなに上手かろうが容赦なく潰す」
喜んでいたのは数秒で、その目はすぐに
「じゃあ、クレアは美里がマッチアップ。俺が黒霧さんでいいかな?」
「うん、それで問題ない」
臨床体制に入り、二人は手を合わせてハンドシェイクする。
「舞、あの二人はブランクがあるとか言ってたけど、本当に気をつけた方が良いよ」
クレアは肩を組み、耳打ちしながら警告をする。
「それは分かってる。たぶん、私が美里さんでクレアが玉枝君とマッチアップすると思うから、ドライブに気をつけてね。一番彼が得意とする技だから」
「うーん、それはどうかな・・・私の相手が美里かな。さっきから殺意を感じるしねー」
彼女の目線が私から、二人の方に移る。私も同じように追いかけると鳥肌がたった。
「なっ・・・」
玉枝と美里は冷たい目で彼女たちを見ていた。
「今気づいた?・・・すでにあっちはやる気だけど、気合をいれていこう」
「うん、心してかかろう」
――――時刻は夕方6時ちょうどがらっぱアリーナのサブコート
「じゃんけんで決めよう、いっくよー」
「じゃーんけん、ポン」
美里とクレアが先攻後攻を決めるため、じゃんけんで勝負を決める。
「あいこでしょ・・・シャッ――――!」
美里がグー、クレアがチョキではなく、口でチ―と言い勝負がついた。
「ワー、しまったー。ごめんね舞、負けちゃった」
クレアは舞に抱きついて
「私たちは後攻でじっくりと手の内を観察させてもらう」
さっき相談した通り、俺が黒霧さんで美里がクレアにマッチアップした。身長差はかなりあり、ミスマッチにも程があるが当人は全く気にせずに、ハンズアップしてDFをしていた。
「美里、私とマッチアップなんて舐めてるの・・・上からダンク叩き込んであげる」
「やってみろ、リングには近づけさせずにカットしてやる」
両者、
(どっちもバスケになると熱くなるのかい)
呆れながら二人を見ていると
「クレア、油断はしないでよ」
黒霧さんが注意を呼び掛けるが耳に届いていなかった。
「黒霧さん、諦めよう。あれは
こちらはやることがないので、二人で会話しながら見守っていた。
ダムダム ダム ダム
クレアがドリブルを始めてゲームが始まった。
クレアの巨体が縦横無尽にドリブルを突き、美里を揺さぶる。
「どうしたー、遅れて来ているよ。それが美里の実力かい?」
左手でクイッ、クイッと挑発する。
「これから本気出すんだよ。今はウォーミングアップ中」
強気なことを言っているが、息があがり辛い表情をしている。
「とりゃー」
左右に振り美里が遅れたところを、右ドライブして抜き去る。
「しまった・・・」
ドギャン
さっき見せたダンクよりも音が激しく、リングが揺れていた。
「まずは一本!どうした早く本気を見せないと終わっちゃうよ」
くねくねと体を揺らして煽りに煽るクレア。美里は軽く舌打ちをしてボールを受け取る。
「おい、オフェンスはどうする・・・手伝おうか?」
「いらない、勝負させて」
言い終えるとドリブルを突き、クレアと同じようにタイミングを見計らい、ドライブを仕掛けようとしていた。しかし、長い腕を活かしボールに手が伸びてきて、得意の低いロントチェンジすらスムーズに行わせてもらえなかった。それでも持ち前のハンドリングで、クレアのDFをかいくぐっていた。
「低く細かいドリブル・・・上手いねー」
クレアは目をキラキラさせ、ボールで遊ぶ犬のようにワクワクしながら、勝負中に話しかける。
「・・・・・・絶対にやりかえす」
右にドライブしてフェイント、ロールターンでクレアの右腕を通過した。
「オラー、抜いてやったぜ」
黒霧さんがヘルプに行くと思ったが、二人の勝負を見届けるために行かなかった。
美里はそのままリングの正面から、レイアップの体勢に入りシュートする。
「もーらい」
美里は完璧に油断してしまった。完全に抜き去りリングに入れるだけと思い込み、クレアの存在を忘れていた。美里の背後ろから黒い影が迫り、放ったボールはリングではなく地面に急旋回して落ちていく。
バッシ―ン
「アマ――――い!!!!」
遅れて来たクレアが、スーパージャンプしてシュートをブロック・・・強制的にシャットダウンしてしまった。
「まじで強いね・・・クレア・・・頼むから私に失望して力を抜かないでよ。必ずこのゲームで勘を取り戻すから」
「アハハハハ、don't worry・・・抜くわけないじゃん」
(本気でDFしたのに抜かれてしまったのは、ビックリしたなー)
また攻守交代して両者気合を入れる。
「私たちっている意味あるかな?もう、あの二人に気が済むまで1ON1をさせてた方がいいんじゃない」
「大丈夫、後1,2回でパスが回ってくると思うよ」
今度は力比べを始める二人、クレアがパワードリブルで押し込み、美里は腕で逆に押し返してDFしていた。
「オーラ、オラッ、力じゃ私の方が上だー」
ワンドリごとに体をぶつけて押し込もうとするが、本気になった美里の前には意味がなかった。
「オワ―、ちょっと・・・美里はいったいどこにこんなパワーを隠しているの・・・重い」
「言ったでしょ、パワーじゃ負けないって・・・オラー」
グイグイ体を張って3Pライン外に弾き出す。
(俺と同じようにクレアも、パワープレイで負けてしまったか)
諦めたのか満足したのかは分からないが、雑に3Pを打って攻撃を終わらせる。
ガシャーン
二人は見つめ合い笑う。
「ハハ、もういいよね」
「ああ、もう実力は分かった。今度はチームでどちらが上か決めよう」
深く
「おい、二人ともこっちはまだ始まってすらいないんだよ。さっさとボールを持って再開させろ」
ジ――――
抱き合ったままこちらを見る二人、俺の顔を
「何だよ、文句があるのか、あぁ、・・・本当ムカつくなーそのキョトンとした顔」
「まあまあ、楽しくいきましょう。はい、二人ともゲームを始めますよ」
小学1年生に優しく接する先生のように黒霧さんは、声をかける。俺の呼びかけには返事すらしなかったのに、お母さんがご飯できたよと呼んだら、一目散にテーブルにあつまる子供みたいに、元気よく返事をした。
「やっぱこんな風に優しく呼ばれた方が気分がいいよねー」
「私のマミーも舞みたいに、優しいよ。あんな野蛮な言い方はちょっとブルー」
(コイツらー・・・)
縁呼は拳を握りしめて手の平に大量の汗をかき、行き場の無い怒りをどこにぶつけようか考えていた。
「・・・にぃ~~ヴぃ」
変な声を発しとりあえずガス抜きをした。
「縁呼、次はパスを回すから好きに動いていいよ。スクリーンやバックドアなどの合図は、右の髪をファサーってしたらスクリーン、左の髪をくるって指に巻いたらバックドア、前髪を撫でたら・・・攻撃!」
「すごい癖のある合図だな、まずは普通に一本大事に行こう」
クレア、舞チームも作戦会議を始める。
「あの男が一番
「うん」
一緒にいる時間が長く、ある程度はクレアの言っていることが分かるようになった舞は、耳を
「やろうか、クレア」
「カモ―ン、美里」
縁呼がボールを手に取り黒霧さんと
「ヘイッ」
さっそく美里が前髪を撫でて、攻撃の合図を送ってくる。俺との距離を離れ、クレアをゴール下まで誘い出す。
「舞、1ON1来るよ・・抜かれても守るから安心して」
すぐに状況を理解してクレアは舞に伝える。
「分かったわ、抜かれたらヘルプお願い」
「伝達が早いねー、でも中では勝負しない・・・外で一本もぎとる」
ゆらっ、ゆらっとピボットを踏んでボールだけは胸の前で、しっかりと固定していた。
(こうやって対戦するのは初めてだけど、憧れた人のプレーは何度もビデオで見て研究はした。たぶん、右に一回ドリブルして、クイックでシュートを打ってくる)
舞の予想通り、縁呼は左のつま先をちょっとだけ右に向け、ボールを突いた。その一歩目を狙い、ボールが手から離れた瞬間にカットする。
パシーッ コロコロコロ
誰もいない半面のコートにボールが転がっていく。
「あれ、取られた」
「何、やってんの?もう交代じゃん」
美里が怒っているのが見なくても分かる。それよりも気になるのが、彼女にカットされたことだ。あの反応の速さは、瞬発力とか条件反射の動きではなかった。あれは、あきらかに俺がそうすると読んで予想した動きだった。もしかして、この人は俺の動きを研究していたかな?そうじゃないと、初見で俺の動きを予測できるはずがない。予想を立てながら、からくりの正体を考える縁呼。この尋常ならざる状態に驚き、その事態に気付いたのは、心無いヤジを飛ばしていた美里だけだった。
「イエーイ、ナイス舞。次の攻撃も頑張ろう」
ハイタッチして喜ぶクレア。
「どうした?あの女にあっさり取られるほど、下手になったか?」
「いや、ちょっと油断していた」
「・・・・・・ならいいよ。次は頼むよ」
文句の一つでも、ガツンと言ってやろうと決めていたが、微妙な縁呼の反応に何かを感じ取り、言葉を飲み込んだ。きっと、彼女に対して考えていたのだろう。自己解決してクレアの所に戻って行った。
「あの人本当は大した事ない?強い人だと思ったけど、私の思い違い?」
「まあ、静かに見ていればいい。すぐに実力を発揮するから・・・縁呼はかなり
「へー、
「黙れ、付き合いは小学からでチームメートになったのは4年生からになる。だから、かれこれ9年来の付き合いになる。後、天地がひっくり返っても好きにはならない」
美里は仁王立ちしながら、ドーンと宣言する。
「もう、嘘つきだなー・・・好きと素直に言えばいいのに」
後ろから抱き着き、頬ずりをするクレア。その姿は、飼い主に甘える大型の猫に見える。
「・・・・・・殺す、好きじゃないと言ってるだろうがメス猫がー」
頭を掴みぐりぐりしようとするが、ふわりと交わし猫の鳴き声で挑発する。
「ニャーオ、どうしたのそんなに怒って・・・可愛い顔が台無しだよー」
「絶対殺す。逃げんなコラー」
言い合いになり遊んでいると舞が助けを呼ぶ。
「クレア、ボールを貰いにきて・・・」
「そんなに焦ってどうしたの?風の如くパパっと抜いちゃいなよ・・・」
舞の方を見ると、ピッタリとマークされて攻めあぐねていた。ドリブルをしながら打開しようとするが、コースを完璧に防がれ取られまいと保持するだけで精一杯だった。
「あら、これはふざけてる場合じゃないね」
「いいぞ、縁呼!そのままDFしてて、パスはさせないから」
「残念でした!バスケは高ければ高いほど有利ということを忘れたの?」
「あ?」
クレアはゴール下で動かずに指を使い天井を指す。
「舞、はるか上でもいいよー」
それを聞いた途端にドリブルを止めて、リングに向かいシュートを放つ。タイミングも体勢もバラバラで入りそうにもない。
「やられた」
縁呼が悔しそうにボールの行方を追う。その
「ナーイスパス、どっこいSHOW――――」
ジャンプして見事にキャッチしたかと思ったら、着地してすぐにスーパージャンプをする。
ドッカ―ン
今までのダンクで一番の迫力だった。美里は空中戦では無力であり、ジャンプは一応していたが、彼女のテリトリーには手さえ届かなかった。思う存分暴れられて、バスケは高さだよと教えられているようだった。
「ハイ、ボール」
わざとらしく丁寧にクレアはボールを渡してくる。
「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・すぅー」
怒りの頂点に達した美里は、高速で縁呼にパスをする。そして、もう一度前髪を撫でて反撃しろと伝える。
(かなりキレてんな、こっちもからくりを明かすために、試してみるか)
黒霧さんが本当に
さきほどと全く同じようにドリブルをして、得意の1.2のテンポでリズムを掴む。さてここからが実験だ、まずは右にドライブと見せかけてフロントチェンジ、そして左に行くとフェイントしてステップバック・・・3Pを狙ってみよう。これは俺がまず初めての相手に必ずする攻撃パターンだ。今までこれを食らい最後までついてきたものはいないぐらい、簡単にスペースが空いてスリーを打って来た。彼女はどこまで初見でついてこられるかな?
ウキウキしながら実験を開始する。名付けて“
「行きます」
ダム ダム ダム ダム
1・2、1.2のリズムでドリブルを突き、5回目でドライブを開始した。
右に大きく一歩目を歩くと彼女もピッタリとDFしてくる。急ブレーキをかけてフロントチェンジをする。少し遅れてきたがまだ追いついてくる。左に体を倒し本気で抜きにかかるふりをする。
「抜ける」
彼女に聞こえるぐらいに、わざと喜んでドライブすることを伝える。
すると、案の定ゆっくりと素早くコースを塞ぎに、サイドステップして追いついてくる。バランスは右側に集中して左の方は軽くなっているはず。重力には逆らえず、いきなり切り返すことができない。それを確認すると、左手でドリブルしたまま右斜め後ろにステップバックする。スペースはがら空きになり、後はゆっくりと自分のペースでシュートを打つだけ・・・
彼女はまだバランスを保とうと踏ん張って、チェックしようと次の行動に移そうとしていた。やっぱり、気のせいだったのね。たださっきのはまぐれで手を出したのが、ボールに当たっただけだ。からくりが分かり、安心してシュートを放とうとすると、彼女の手がもう顔面近くにあった。
何――――!?
バシッ
またしても彼女に抑えられてしまった。これで本日2回目の敗北を喫する。彼女の表情はホッとしていた、チェックして喜ぶのではなく、まず
「また取られちゃったね、OFはまあまあかな」
「・・・・・・にー、あの女はもう相手になんねーよ」
縁呼の表情を見逃さなかった人がここに一人、徐々に勘を取り戻す彼を見習い彼女もまた、同じように不敵な笑みを浮かべ、DFに集中する。
「無視かよー、でんでんむしー」
「誰がかたつむりか、人間だよ」
クレアの変な呼び名には思わず反応してしまう。きっと中学時代、さんざん
「舞、こっちにパース」
フリースローラインの角でポストアップして、ボールを要求する。
「ヘルプお願ーい」
力では勝っているが、高さはどうしようもないので縁呼にすぐ助けを求める。
「任せろ」
すぐにクレアへ寄り、舞とクレア両方とも視界に入れつつDFしていた。
「ふーん、DFは堅そうだから返すね」
舞にリターンパスして仕切り直す。ゴール下に引き下がり舞に1ON1のスペースを空ける。
「舞、二人はやっかいだから一人で打開して」
彼女に攻撃を任せてあくびをする。それを見て縁呼はヘルプDFは止めて黒霧一人に集中する。
「スクリーン、左、左」
慌てて声をかける美里の方に首を向けると、左後ろ10cmもない至近距離にクレアがいた。
「えー、やる気なく立ってたのは芝居かよ」
完全にクレアにしてやられスクリーンが成立、クレアにぶつかり舞の姿が隠れるよに彼女の後ろに消えていく。
「スイッチ、頼む」
美里に舞を任せるが、クレアがここでさらに動く。ボックスアウトして俺の侵入を許さず、ゴールに向かいパスの要求をする。あっという間に1対2の状況を作られて美里の挟み、空中でパスを行い左手のトマホークダンクを決める。
ズギャッ
「よっしゃー、“死体ゾンビ作戦”大成功、イエーイ」
作戦を最初から決めていたらしく、舞を高い高ーいして喜びを味わっていた。
「分かった・・・分かったから降ろして、ちょっと怖くなってきた」
青ざめた舞は背中をさすってもらい介抱されていた。
「ぎゃー、大丈夫・・・いったい誰がこんなことを」
(アンタでしょ、アンタが空中にお手玉みたいに投げたから、気分が悪くなったと思うが)
「TIME」
クレアが手でTのポーズを作り、
「分かった、こちらも作戦会議があるから、それまでに黒霧さんを回復させておきなさい」
「ほーい」
「美里、ここに集合・・・どうした?あんなダンクを3連発も浴びて、
「ううん、やっぱあんな間近でダンク見たのは初めてだよ。やっぱり、バスケ選手だったら一度はダンクをしてみたいよねー・・・いいなー」
無用な心配だったらしく、やる気に満ちてダンクをどうしようか、難しく考えていたらしい。
「リングの高さが3m05cmある。美里の身長が160cmだとすると、腕の長さを考慮しても、最低でも確実に1mはジャンプしないといけないぞ」
「1mかー、肩車をしてくれるか土台になってくれたら、いけるかな?」
「・・・やってみるか?」
「・・・・・・一度試してみよう」
黒霧さんの体調が戻ってくるまで実験してみることにした。実験その2、彼女がダンクできるか様々な方法を試してみよう。名付けて“
まず試した方法がゴール下に俺がうずくまり、できるだけ背中を平らにして台を作り、それを蹴りジャンプの高さを上げる方法だ。
結果は・・・・・・
失敗、グラグラして安定せずに服との摩擦で、バッシュが滑り空想のようにはいかなかった。
「じゃあ、次は私を肩車してできるだけジャンプしてね」
「おう」
これはリングに届くと思ったが、その前にアクシデントが起こった。軽いと思うが美里を肩車して移動するのが、もうキツかった。これはジャンプできるほどの力がないと無理だ―。
「
「おい、もう少しで届きそうだから頑張って耐えて、肩車から俺の肩に足を乗せて立ち上がろうとしていた。
ブルブルブルブル
足の筋肉、腰の悲鳴、肩の重さ、俺の体が限界がきていることをサイレンを鳴らし、教えてくれている。
「うお――――、まだかー、筋肉が・・・痛――――」
「よし、立てた、足首から手を放していいよ」
パッと手を放し、グラグラ揺れる自分の震えを止めて、美里に影響がいかないようにしていた。
「よいショー」
ガコーン
ようやくリングに届いたのか、ダンクを成功させた。パワーはそれほどないが及第点だろう。リングにぶら下がりながら、ゆっくりと手を放し着地する。実験はかろうじてだが成功した。
「イエーイ、ダンクできたー・・・これでもう試合に集中できる」
ガッツポーズしながら踊っているのを、休憩していたクレアと舞が見ていた。舞はすっかり気分が良くなり、縁呼と美里の行動を観賞していた。
「あの二人、本当に仲がいいね。やりとりをみていると、こっちが恥ずかしくなってくるぐらいに」
「あれで好きじゃないとか言うんだから信じられないよねー、UFO」
「ははは、確かに信じられないかも」
――――時刻は午後6時45分
アリーナの使用終了時間午後7時まで時間がない、4人は2ON2の続きを断念して、片付けと掃除にとりかかる。少しでも時間を過ぎたらこっぴどくスタッフさんに怒られるので、急いでモップをかけてコートを綺麗にする。その後は、着替えを後回しにして、荷物を持って外に出る。電気の消し忘れやごみが落ちていないか確認して、受付に報告する。
「はぁ、お腹すいたー・・・結局12対2の完敗だったー、悔しい」
「私たちの
クレアがタオルで汗を拭きながらどや顔する。
「全部ダンクで決めてきやがって、羨ましいぞ・・・このー」
美里がタオルを奪い取り、クレアの頬をぐにぐにとする。
「あぁ~、それ気持ちイー・・・その調子で肩もお願いしまーす」
「誰がやるか」
すぐに喧嘩する二人を止めて黒霧さんが更衣室に連れていく。
「更衣室で着替えて早く帰りましょう。外はもう暗いので親御さんが心配します」
「やっばー、もうそんな時間じゃん。お婆ちゃんは晩御飯が食べるのが早いから、何か食べて帰ろうっと」
「じゃあ、ハンバーガー食べよう。縁呼が奢ってくれるって言ってたよ」
「おい、奢ろうかなと言っただけで、本気で行ったんじゃないからなー、おい、聞こえてるか?」
取り残された俺はパパっと着替え、三人を待つことにした。
とてもパワフルな二人が友達になったものだ。あれが同じチームメートだったら、まとめるキャプテンや先生は大変そうなー。
しかし、良いこともある。美里とクレアの
一人、ひっそりと思い出に浸り懐かしむ縁呼は、MBに向けてよりいっそう本気で目指すことを決めた。
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