第3話天啓

人偏に牛と書いてくだんと読む。人間の顔と牛の身体を持つ妖怪、件。この国で起きる歴史的大凶事の前に現れ、その予言をし、終われば死ぬという言い伝えがある。

 先の大戦の終わりからは、牛の頭と人間の身体をあわせ持った牛女の出現情報が、まことしやかに囁かれた。

 見てくれとは裏腹に、件は人間を凶事から救う善獣とされた。

 実を言えば今、蓼科の山懐やまふところに囲まれた一軒の山荘に、件の娘が存在する。生まれ落ちた時は五体満足だった娘は、成長に従って牛の顔を色濃くする件の娘へと、変貌を遂げた。

 娘はその名を、式根といった。外界と隔絶され、25の年まで生き長らえた式根は、言葉を失った後、筆談で母とやり取りをした。彼女は東京で起きたテロも、東日本の大震災も、寸分たがわず言い当てたが、今回の啓示は、今まで以上に謎めいており深刻な様相を呈していた。

 生肉だけを食らい、人とも獣ともとれぬ声で夜な夜な泣き続ける式根は,廻りの村人から忌み嫌われた。

 「えきびやう」「まんえん」「うしをに」「むくろのやま」

 血の涙を流して書き綴る式根の、今まで見たこともない姿に、彼女の母でさえ、身の毛がよだつ思いがした。

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