次元魔女ダリア
知らない人に話しかける時は、いつも緊張する。
動きがキョドって不自然になる。口の中がカラカラだった。
見た目で変に思われないか、気になって仕方ない。
「よ、よう……こんばんはっ! あんた、『次元魔女ダリア』かいっ?」
親指を立てた笑顔の俺が挨拶すると、三角帽子から見事な赤毛をはみ出させた122歳の魔女は、こちらをチラリと見てから言った。
「そうよぉ。でも男は嫌ぁい、どっか行ってくれるかしらぁ」
にべもない。
固まる俺の後ろから、マリオンが進み出る。
「なあ、話だけでも聞いてくれ。オレ達、助けが必要なんだ!」
途端、ダリアは顔をほころばせた。
「あらっ、こないだ来てた子よねぇーっ!? 美形だから覚えてるのぉ。力になれるかわからないけど、お姉さんに話してごらんなさぁい?」
……えー。なにそれ、あからさま過ぎね?
兎にも角にも俺らはダリアに、デュラハンと『魔剣グラハム』、そして直面している問題について説明した。
ダリアは黙って話を聞いていたが、やがて頷く。
「ええ、できるわよぉ。アタシなら異次元に干渉してぇ、デュラハンをこちらの世界に引っ張り出せるわぁ」
その一言に、俺とマリオンは大いに喜んだ。
俺はダリアに、深々と頭を下げる。
「頼む、協力してくれないか!」
するとダリアはマリオンを見て、ペロリと舌なめずりしてから言った。
「協力してもいいけどぉ、条件がひとつ。……その娘ぉ、貸してくれないかしらぁ?」
「……???」
申し出の意味がわからず、俺とマリオンはそろって首を傾げる。
ダリアはグビリと生唾を飲み込み、ギラギラと欲望に狂った表情でマリオンを眺めて言った。
「だからねぇ……アタシに一晩、その娘を好き放題させてよぉ。あなた、その娘の主人よねぇ? いいでしょお? 身体に傷はつけないからぁ……うわあ、本当に可愛い子ねぇ。肌艶がピカピカしてて……しかも、全身に良質のエナジーが
獲物を見つけた蛇のような目つきに、ゾゾゾゾゾー……俺らの全身に鳥肌が立った。
はっきり言って、キモかった。性欲丸出しだった。超怖かった。
とっさに俺は、マリオンを背にかばう。
「ふ、ふざけんなッ! 絶対にダメだ! そもそも、マリオンは奴隷じゃない! 俺の親友なんだぞーっ」
親友の一言に、ダリアが変な顔をする。
しかし、断固として拒否する姿勢を見せると、今度はあからさまに邪険な態度をとり始めた。
「あっそぉ。じゃ、協力しなぁい。早く、アタシの前から消えてくれるぅ?」
「そ、そんな……あんたが協力してくれないと、デュラハンは王国に居座り続けるんだ!」
「知ったこっちゃないわよぉ、そんなことぉ」
「また、死人が出るかもしれない! 放っておけないだろ?」
「だからぁ、知らないってばぁ。人が死ぬから、どうだっていうのよぉ。うるさいわねえ」
どうやら本当に、協力する気はないらしい。
と、しばらく唇を噛んでいたマリオンが、意を決したように言う。
「ジュ、ジュータ。……オレ、やるよ。一晩、この女と一緒にいる!」
「マリオンっ!?」
ダリアが、ニコニコ顔で手を叩いた。
「わ、やったぁー! じゃあ、協力してあげるぅ! う、ふ、ふーっ。楽しみだわぁ……忘れられない夜にしてあげるからねぇ?」
マリオンは怯みつつも、ダリアの顔を見つめて言う。
「そ、その代わり……絶対に協力してくれよな! 約束だぞ!?」
ダリアは、はっきりと頷く。
「ええ。約束は必ず守るわぁ。特に、可愛い女の子との約束はねえ」
俺は慌てて、2人の間に割り込んだ。
「ダメだってばっ! マリオン、やめとけよ! こいつ、なんかアブナイぞ!」
ダリアがムッとした顔で言う。
「ちょっと邪魔しないでよぉ! アタシはぁ、この娘と話しているのぉ。あなた、さっき偉そうに言ったわよねぇ? マリオンは俺の奴隷じゃない……でしったっけぇ? だったらぁ、この娘の意思も強制できないはずじゃなぁい?」
グッと言葉に詰まる。
だけど、放っておくなんてできっこない!
俺は、マリオンの肩を揺さぶって叫んだ。
「マリオン! さっき、こいつの目つきを見ただろ!? 絶対に酷い目にあわされる!」
マリオンは、頬にタラーリと汗を流しながら言う。
「だ、大丈夫だよ。目つきは、確かにアレだったけど……身体に傷はつけないって言ってるし。……が、我慢できるよ……たぶん!」
と、そこへ俺の声を聞きつけたのか、お盆を持ったフォクシーが割り込んだ。
「ダリアさん!? マリオンちゃんに何をしようとしてるんですか!」
「あらぁ、フォクシーちゃぁん……そんなに怒らないでよぉ」
しかしフォクシーは、今までにない剣幕で怒り出す。
「いいえ、怒ります! 今日は怒ります! いつも言ってるじゃないですか! 女の人に声かけるのは大目に見ますけど、相手を大事にしてくださいって! こんなちっちゃい子を無理やりなんて……今のダリアさん、サイテーですよっ!」
「だ、だってぇ……魔女って、そういうものでしょ? 協力の見返りに条件を提示してぇ、守れなかったら復讐するぅ。アタシぃ、ずっとそうやって生きてきたのよぉ?」
「今までがどうでも、あたしの前では許しません! ジュータさんだって困ってるわ! こんなの、絶対に見過ごせません!」
そういやフォクシー、俺が『一期一会』の奴隷を買うって時も怒ってたよなぁ?
きっと、弱いもの虐めを見過ごせない性質なんだろう。
本当にいい娘だ……。
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