そいつは、ずっとそこにいた

 このままでは、無為な日々が過ぎてくだけ……しかし、みんなで王都に帰るのも不安である。

 本当に何年もデュラハンが出てこないならともかく、明日いきなり出てこないとも限らないのだ。

 相談の末、デュラハン対抗の道を探るため、俺とマリオンは王都へ戻る事にした。

 っていうか、ユーフィンの町では俺に対する風当たりがキツくって、もう精神的に色々と限界だった。


 ウラギールとシャルロットは、ユーフィンの町に残る。もしもデュラハンが出てきたら、すぐに連絡をくれるそうだ。

 デュラハンとは闘わずに、時間稼ぎして俺を待つ予定だが、どうにもならない場合はシャルロットが闘う。

 彼女でデュラハンに勝てるか不安だが……『霊剣マクドウェル』を持てば、良い勝負ができるだろう。『カウンター』も『デュエル』で無効化できるはず。負けた場合は、ウラギールが『ハイディング』で霊剣を回収する手はずである。

 シャルロットはアホだけど、一応は俺の友達だ。迷惑ばっか掛けてくるけど、決して悪い奴じゃない。マリオンを守ってくれた恩もある。……死んで欲しくないよなぁ。

 早く王都で、デュラハンを捕まえる方法を探さないと!



 そして馬に乗って、1週間。ここは『銀の三角亭』である。

 あの日以来、すっかり沈みきってるマリオンを連れて店に入ると、フォクシーが満面の笑みで寄って来た。


「ジュータさーんっ! デュラハン退治、終わったんですか? お怪我もなさそうですね……私、ホッとしました! あ、いつものお席、空いてますよ。デビットさんも来ています。今夜は、海産物がオススメです!」


 ああ、会いたかったよ、フォクシー!

 君の尻尾フリフリが、心から嬉しいぜ。

 俺が求めていたのは、こういうハートウォーミングな接客なのである。

 俺は、涙ぐみながらフォクシーに言う。


「い、いや……。実はまだ、仕事の途中なんだ。ちょっと問題が起こっちゃってね……ぐすっ」


 涙を浮かべた俺を見て、フォクシーは首を傾げながらも「ジュータさん、お飲み物はエールでいいですか? マリオンちゃんはワインかな? でも、あんまり飲みすぎちゃダメよ」と尋ねてくる。

 俺らは頷いてから、食べ物も適当にお願いし、マリオンを伴ってデビットの隣へと腰掛けた。

 デビットはポテトフライをつまみに、エールを飲みながら言う。


「聞いてたぜ……デュラハン退治、まだ終わってないのか。お前なら、楽勝だと思ったがなぁ」


「なあ、デビット。『魔剣グラハム』って知ってるか?」


「名前くらいはな。東の大英雄、剣聖カノッサが持ってる魔剣だろ? ……お、おい、待て!? まさか、『霊剣マクドウェル』が負けたのかっ!?」


 血相を変えて立ち上がるデビットを、俺は手で制す。


「いいや、違う。お前の武器は負けてない。むしろ、圧勝だった。とにかく座れよ」


 俺はデビットに、デュラハン退治で起こった一連の出来事を語って聞かせた。

 もちろん、マリオンの男風呂云々やユーフィンでの俺の悪評なんかはカットしたが。

 話が終わるとデビットは、あくびをひとつしてから言った。


「その、『魔剣グラハム』の対処法はちょっとわかんねーけど……でも、『次元魔女ダリア』なら何処にいるか知ってるぜ」


「えーっ!? マジかよ!!」


「マジ、マジ。……っていうか、お前もしょっちゅう顔を合わせてるけどな」


 言いつつ、酒場の一角を指し示す。

 見るとそこでは122歳の魔女が、フォクシーに粉かけてる真っ最中だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る