魔剣グラハムの対処法

 そして……奴が消えて、もう2週間が経ってしまった!


 マリオンによると、デュラハンが消えた現象は『魔剣グラハム』によって引き起こされたものらしい。

 詳しくはマリオンにも不明だが、あの武器には神々と戦争していた太古の悪魔が封印されていて、『持ち主を異次元へ転移させる』能力があるそうだ。

 場所の移動はできないが、任意のタイミングで元の世界に戻れる。もっとも、別次元では悪魔が常に破滅を誘惑して来るため、普通の人間ではまず耐え切れない。生前のカノッサは、強固な精神力で誘惑を撥ね退けていたと言う。

 なんか、あれだなぁ……ロードオブザリングの指輪みたい。使いすぎると「愛しいシト」とか「マイップレシャース!」言っちゃうのかなぁ?


 とにもかくにも、すでにアンデッドであるカノッサには、使用制限がないのだろう。

 これで騎士団や兵士達が、デュラハンを見つけられない理由が判明した。きっとその気になれば、何日でも別次元にいられるのだ。判明したからと言って、どうにもできないのが辛い所だが。

 消えた付近を兵士達に見張らせているが、目撃情報はゼロである。そしてもちろん、犠牲者もゼロだ。つまり、異次元から出てきてない。

 その証拠に例えば、俺に襲い掛かってきた『ハンマージョージ戦士団』辺りは、デュラハンに殺されてもおかしくない実力者らしいのだが、まだ殺されていなかった。

 正直、ここまで動きがないと、俺達にはどうしようもない。


 ユーフィンの町、いつもの酒場の貴賓席きひんせきで、ウラギールが苦い顔をする。


「こりゃ、本格的にまずいですよ! とにかく、あの魔剣をどうにかしなけりゃあ……っ!」


 俺は、飲み干したジョッキを掲げた。お代わりの合図である。

 しばらくするとウェイトレスがやって来て、ジョッキを乱暴にひったくると、新しいエールを入れたジョッキを俺の前にドカンと置く。それから生ゴミでも見るような目を向けて、舌打ちする。去り際に「死ね、女の敵!」と小さく呟くオマケ付きだ。

 マリオンがウェイトレスに怒りの声を上げるが、彼女は同情的な視線でマリオンを見ると、頭も下げずに去って行く。

 全部、噂のせいだった……この街での俺の人権は、ないに等しい。

 俺は頭を抱えて、テーブルに突っ伏した。


「……早く、おうちに帰りたい」


 シャルロットが「人の噂など気にせぬことです!」と快活に笑い、マリオンが「ごめんよジュータ、オレのせいだよーっ!」と半泣きになる。

 だがウルギールは、俺の気持ちをさらに萎えさせるように言った。


「しかしこのままじゃ、どうしようもありませんや。アンデッドは、生者と時間の感覚が違いますからね。下手したら、数年くらい平気で籠城ろうじょうするでしょう」


 その言葉に、俺の気が遠くなる。

 かすれ声で俺は言った。


「も、もう限界だぁ……勘弁してくれ、ウラギールっ! 俺、この町にいたくない。屋敷のある王都がいい。『銀の三角亭』で酒が飲みたい。俺はフォクシーに会いたい。フォクシーに接客して欲しいよう!」


 血の気の引いた涙目の俺を見て、ウラギールが気の毒そうに言う。


「う、うーん? そうですなぁ……とにかく、デュラハンを引っ張り出す方法が必要です。次元に干渉できるような、魔術やアイテムがあればいいんですが……しかし、そのレベルの魔法使いとなると、大陸全体を見渡しても何人いるでしょう? 今、騎士団や兵士達に必死で心当たりを探らせてますが、あまり期待しないでください。……そう、例えば『次元魔女ダリア』の居場所でも、わかりゃいいんですがねえ」


 俺は、ウラギールに問うた。


「誰だよ、そのダリアって? そいつがいれば、問題解決するのか?」


 ウラギールは、エールを飲みながら答える。


「ダリアは100年前、この国を救った英雄ですよ。『黒の勇者カレン』と共に、悪魔の大群から王都を守り抜いたんです。彼女は次元魔法のエキスパートで、女の身でありながら女体に並々ならぬ感心を抱く、とてもワガママな女色じょしょく魔女だったとか……」


「女体に? ……ああ、レズっ娘だったのね」


「はい、まあ。わかりやすく言えば、同性愛者でやした。ですが、カレンが男と結婚したのにショックを受けて、人前から姿を消してしまった。最後に目撃されたのも数十年前。魔女ですから寿命は長いはずですが……もう、死んでる可能性もありやすねえ」


「ふうん、『次元魔女ダリア』ねえ……。なあ、そのカレンってのは、なぜ黒の勇者なんて呼ばれてたんだ?」


「夜の闇を思わせるような漆黒の髪色に加えて、黒い液体を入れた瓶を常に持ち歩いてて、それを旨そうに飲んだり料理に掛けて食ったりしてたらしくて。そんな所から、黒の勇者と呼ばれてたそうです。……そういや、カレンも『カウンター』の使い手でしたね」


「なんか、そのカレンって奴のが魔女っぽくて不気味だなぁ」


 そんな他愛のない会話をしながら、俺らは陰鬱いんうつな食事を続けるのだった。

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