ガーディアンハート

 俺は、デュラハンとマリオンを交互に見比べ、完全に固まってしまった。

 と、マリオンの後ろから、今度はシャルロットが猛然と駆けて来る。


「うっおおー! フォー、ジャスティーッス!」


 ア、アホーっ! お前まで来て、どうすんだーっ!?

 思わず叫ぼうとした、その瞬間。

 シャルロットがマリオンに飛びつきながら、先に叫んだ。


「お任せください、ジュータ殿っ! 『我、シャルロット・ドゥ・ヴィリエはジュータ・イスルギに対して決闘を宣言する』っ!」


 ……っ! そ、そうか! 偉いぞ、シャルロット!

 彼女の意図を理解した俺は、即座に『メガクラッシュ』を撃った!

 一度だけでなく、二度、三度、四度……残る体力を注いで、ひたすら撃ちまくった!

 視界の隅で、光り輝く球体が揺れている……そして、五度目を撃った後、ついに俺は立っていられなくなり、その場に膝を着く。


 俺は『霊剣マクドウェル』を杖がわりに、なんとか体を支えた。

 心臓が張り裂けそうなほど脈打って、視界がクラクラと揺れる。全身から汗が噴き出し、間接が炎症を起こしたように熱くなる。どろり、鼻血まで出てきた。


 おそらく、あと一度か二度……それを撃ったら、俺は死ぬ。

 霞む視界の中、祈るような気持ちで周囲を見渡す。

 まず、マリオンだ……マリオンはどうなった!?


 …………いた!

 マリオンは、無事だった。『メガクラッシュ』と敵のスキルに巻き上げられた土砂にまみれながらも、シャルロットの腕に抱かれている。ここからではよく見えないが……どうやら、怪我もなさそうだ。

 シャルロットも土塗れだが、やはり無事だ。彼女が大丈夫なのはわかっていた。

 『デュエル』の効果で、俺の『メガクラッシュ』は彼女に届く前に無効化されるからだ。先ほど光っていた球体が、それである。バリアみたいな物なのだ。

 正体不明の敵スキルの痕が二本、彼女の隣を走っているが、シャルロットは天才なので、見事に避けきったようだった。さすがは王国一の剣の使い手である。普段、アホだなんだとキツく当たっているが、今だけは賞賛を惜しまず褒めさせて欲しい。


 デュラハンが、ヨロヨロと立ち上がる……おい、嘘だろ。

 あれだけ食らって、まだ動けるなんて!? こいつの耐久力はドラゴン以上かよ!


 もっとも、立ち上がるのもやっとの様子だ。

 デュラハンの兜は、完全に砕け散っている。中の顔は声のイメージ通り、しわの刻まれた老人だった。アンデッド特有の血の気がない、青白い肌である。

 額に大きな十字傷、右頬にも縦に刀傷。鎧もボロボロで、隙間から素肌が垣間見える。やはり、死人色しびといろの肌だ。だがこちらは、老人とは思えぬ若々しい身体つきである。剥き出しの左肩に、魚型の黒痣くろあざがあった。

 デュラハンは、かすれ声で言う。


「し、信じられんっ! そうまで連発できるとは……か、勝てぬ! 口惜しいが……今のわしでは、お前には勝てぬ……っ! 勝負は一時、預けさせてもらうぞ!」


 そう言うとデュラハンは、手にした剣を持ち上げて、勢いよく振り下ろす。

 すると、空間に真っ赤な裂け目ができる。デュラハンはそこに、倒れこむように身体を沈め……消え失せてしまった。

 影も形も残っていない。……ただ激闘を物語るように、俺のメガクラッシュで焼け焦げた地面と、敵のスキルによって刻み込まれた巨大な爪痕が残るだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る