謎の爪痕

 低い草がパラパラと生えた、見渡す限りの平原である。

 日も暮れかけた夕闇の中で、俺とデュラハンは対峙たいじする。

 さらに30メートルほど離れた場所に、ウラギール、マリオン、シャルロットがいた。『霊剣マクドウェル』を用いた『メガクラッシュ』の範囲が、半径25メートル前後だからだ。この範囲内にいる者は問答無用で大ダメージを受け、ほとんどの場合、死ぬ事になる。


 俺が『霊剣マクドゥエル』を鞘から抜くと、デュラハンも腰から剣を抜いた。それは漆黒の刃を持つ、幅広の剣だった。

 デュラハンが、くぐもった声で言う。


「一対一で勝負できるなら、わしとしてもありがたい。お前を殺した後で、シャルロット・ドゥ・ヴィリエを始末させてもらう」


「ほう……すごい自信だな」


「なんの。わしには、お前の方が自信満々に見えるがな。構えは素人同然なのに、そこまで堂々としていられるのは不気味だ……さては何か、強力なスキルを持ってるのだろう?」


「うーん、どうかな? なんだと思う? 当ててみなよ!」


 俺がうそぶくと、デュラハンは笑った。


「グフフ……少し、自慢させてくれ。実はわしも、強力なレアスキルを主より授けられているのだ」


 デュラハンが剣を構える。

 次の瞬間、脳内を右から左に掛けて、閃きが走った!

 それは、相手がその方向から切りかかってくるという『霊感』である。

 だが、どんな攻撃だろうと、俺に当たる事はない。

 俺は落ち着いて、『メガクラッシュ』を発動した。

 刹那、轟音と共に半径25メートルの範囲を稲妻と衝撃波が駆け巡り、あらゆる物体を蹂躙じゅうりんする。これを受けて立っていられるのは、ドラゴン級の体力を持つ者だけだろう。

 これで、勝負は決まったはずだった。


 ……しかし、ゾクリ。

 背筋を怖気が走り、上から下へと閃きが貫く!

 ヤ、ヤバイっ!? なんかわかんねえけど、すんげえヤバイっ!


 後生大事にボムを残して、抱え落ちする気はない。霊感に突き動かされて間髪入れず、二発目の『メガクラッシュ』を発動!

 再び、俺は無敵になる。だが身体は硬直中で、まだ動かない。その時……巨大な何かが、『無敵と化した俺の中』を通り抜けて行った。

 そして、スキルの硬直が解ける。


「うっ、おおおーっ!」


 同時に、俺の身体は回転を始め、またも電光と共に衝撃波が駆け巡る!

 それが収まった後。

 ……目の前には、仰向けに倒れたデュラハンがいた。

 漆黒の鎧には無数の傷が走り、傍目はためにもダメージが見て取れる。

 それは、『メガクラッシュ』の発動前に俺が想像した結末とまったく同じで……だけど。

 だったら。あの、何かが通り抜ける、妙な感覚は一体……?

 俺は、ゆっくりと振り向く。


 それを見て、鳥肌が立ち、血が凍った。

 俺の背後、50メートル向こうまで、まるで巨大な爪で地面を抉ったような痕が走っていたのだ。それは、離れて見ていたマリオン達のすぐ横を通っており、あと少しだけ角度が違っていたら、彼らは巻き込まれて死んでいただろう。

 唖然とした俺の口から、呟きが漏れる。


「な、なんだよ……これえっ!?」


 これがスキルだとしたら、あまりにもでたらめな威力である。おそらく、ドラゴンでさえ一撃のもとにほふれる。強固な城壁すらも分断できるに違いない。

 と、マリオンが俺の方に、よろめき走って来るのが見えた。


「え、マリオン……なんでこっちに!? 来るなーっ! まだ危険だ! 来るんじゃなーいっ!」


 俺は慌てて叫ぶ。だが……マリオンは止まらない!

 背後で、ズシャリ。デュラハンが立ち上がる。そして、怒鳴った。


「ええい、忌々しい! よもや、このような強力なスキルが世に眠っていたとはな……!」


 ク、クソ……どうする!?

 今、『メガクラッシュ』を撃てば、デュラハンは倒せる。

 しかし、『メガクラッシュ』の範囲内にはマリオンがいる。

 撃てば、マリオンまで巻き込んでしまう。それだけは、絶対にできない!

 そうだ、ナックルダスターの『メガクラッシュ』なら……いや、ダメだ!

 おそらく、威力不足だろう。残り体力すべて注ぎ込んでも、こいつを倒せるとは思えない。


 一体、どうすりゃいいんだ!?

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