現れしデュラハン
バリバリバリ……ズガァーン!
ユーフィンの街角に、破砕音が鳴り響く。
俺はナックルダスターを手に、本日五回目の『メガクラッシュ』を打ち終わり、ぜいぜいと肩で息していた。周りに倒れ
国や貴族に仕えて戦うのが騎士や兵士なら、戦士とはギルドを通して戦う連中の事だ。戦士団は、そいつらの集まりである。
野次馬がざわめきを上げる中、俺は最初に名乗りを上げたリーダー格と見られる、ジョージという男の胸ぐらを掴み上げて怒鳴った。
「おい、おいおいおい……いくら俺でも、もう怒るぞっ!? 朝から、お前で五組目だ! ……多すぎだろっ! 不良マンガの敵対してるヤンキー高かよ、お前らは!? 俺が一体、なにやったってんだ!?」
ジョージは血の混じった唾液を地面に吐き捨てて、虚勢を張るかのように笑った。
「ふ、へへっ……女の子を大浴場に連れ込んで衆目に晒し、気絶するまで性的なイタズラするような奴が、今さら被害者ヅラかよ……?」
「…………えっ?」
「てめえ、噂になってんぞ。男の風上にもおけねえってな!」
「げええーっ、な、なにそれえっ!? お、おい、ウラギール!」
俺がウラギールを見ると、彼は困ったように顔を背ける。
「えっと、まあ、その。そういう噂が立っちまってて……で、すごい勢いで広まってんですよ。一応、兵士連中には打ち消しを図らせてますが、あんまり否定し過ぎるのも返って嘘くさいですし、どうしたもんかと……報告遅れて、すいやせん」
おいコラ。
確かに噂を広めてくれとは言ったけど……その内容は酷すぎだろ!?
と、シャルロットに守られていたマリオンが前に進み出て、大声を上げた。
「ちょっと待ってくれっ! それは誤解だよ! ジュータは悪くない!」
お、おお。いいぞ、マリオン! 言ってやれっ!
俺の口から否定するのは言い訳っぽいが、被害者(?)本人の口から否定するなら文句なしである。
ジョージと野次馬の視線が、マリオンに集中した。マリオンは一瞬だけ怯んだが、すぐに堂々とした態度で歩み出て、よく通る高い声で怒鳴った。
「風呂は、オレが望んで連れて行ってもらったんだ! ジュータはワガママを聞いてくれただけ! 気絶したのは精霊酔いって奴だし、性的なイタズラなんてされてない! いい加減な噂を広めるのは止めろ! オレは、ジュータに感謝してんだよ!」
ジョージが俺を見て、「そうなのか?」と問う。
俺は、黙って頷いた。
野次馬たちも、「ほら、やっぱあの噂は嘘なんだよ!」とか「当の本人が、そう言ってんならねえ?」だのと言い、俺への追い風ムードが高まってきた。
それからマリオンは顔を真っ赤にして
「そ、それに……性的なイタズラは……むしろオレの方が、ジュータにしちゃった、みたいな……?」
その言葉に、辺りの空気が一瞬にして凍る。
え……ちょっと、マリオンさん……?
マリオンさん!?
マリオンさーんっ!?!?
あんた、この状況でなに言ってんすかーッ!?
よく見れば、俺の首筋や頬にはキスマークが沢山ついてるし、耳たぶも小さな歯型が並んでる。マリオンは、そんな俺の方へとテコテコ歩み寄ると、俺の服をキュッと掴んで頭を下げて、ダメ押しの一言を口にした。
「さ、昨夜は……いっぱい乱暴しちゃって……ほんと、ごめん!」
……どうもマリオンは、今の姿を『借り物』と思ってる節があった。
少女服でオシャレもするし、裸を見られて恥ずかしがりもする。だけどそれはゲームのキャラを着飾るように、本当の自分ではない。いつか男に戻るのだから、女の振る舞いを身に着ける必要はないし、むしろ『身につけない方がいい』みたいに考えてるようだった。
なので幼女の発言が周囲にどう思われるかも、深く考えない。今だってきっと俺を
それ、完っ全に逆効果だよ、マリオン……。
俺に胸倉をつかまれたジョージが、真っ青な顔で呟いた。
「お、お前……。こんな子供に……なにを仕込みやがった……?」
野次馬たちが、引きつった顔で離れて行く。
顔を上げたマリオンは、キョトンとしている。
かくして、『ロリコン倒威爵』と『ヘンタイ英才教育された幼女』の噂は、ユーフィンの町を中心に急速に広まるのだった……あー、もういいですよ。
好き勝手に広めればええやね。俺、もう諦めたから。
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