この世界のスキルとは

 戦いを終えた俺らは、ユーフィンの町へと戻っていた。

 俺はヘトヘトに疲れきっていて、歩くのもままならずウラギールに支えてもらったが、魔法のお湯に浸かったら、あっという間に回復してしまった。

 ……効果ありすぎて、ちょっと怖い。

 これ、副作用とかねえのかな?

 シャルロットも魔法のお湯に浸かったが、マリオンは普通のお湯を染み込ませた布巾で、身体の泥を落としただけだ。

 その後、俺たちは貴賓席きひんせきのある、少し高めの酒場で食事することにした。


 テーブルに酒と料理が運ばれてくるが、誰もが黙って暗い顔をしている。食も進まない。

 特に酷いのがマリオンだ……さっきから泣きそうな目をして、鼻を何度も鳴らし、精神的なショックを隠そうともしなかった。

 しかし、いつまでもこうしてるわけには行かない。マリオンから話を聞きだすのは、親友の俺の役目だろう。

 俺は、マリオンの肩に手を置いて言う。


「なあ、マリオン……。俺らが闘ってる時、どうして急に走ってきたんだ?」


 マリオンは黙って鼻を鳴らす。

 俺は少しだけ待ってから、また聞いた。


「マリオン。デュラハンの正体か……もしくは地面を抉った謎スキルに、心当たりあるんじゃないか?」


 マリオンは、ビクリと身を震わせた。

 それから、真っ青な顔と震え声で言った。


「あ、あれは……あのスキルは多分……『カウンター』だと思う……」


 それを聞いて、ウラギールがのけぞった。


「カ、『カウンター』ですってぇ!? そりゃ、伝説級のレアスキルじゃねえですかいっ!」


 少し、説明しよう……この世界、スキルを持たない人間が9割を占める。

 そしてスキルの中でもレアスキルは、「所持できるのは世界で一人だけ」と決まってるそうだ。つまりウラギールの『ハイディング』も、シャルロットの『デュエル』も、彼らが生きてる限り、他に持ってる人間は現れない。

 さらにレアスキルの中でも『伝説級』は、そのスキルを所持してるだけで、一般人でも英雄になれるレベルのスキルである。『ハイディング』も『デュエル』も一見すると強力無比だが、使いこなすには本人の鍛錬が必要不可欠だから、伝説級ではない。

 その上で、歴史上に一人しか使い手が確認されていないスキル(例えば、死者蘇生の『リザレクション』や倒した相手を吸収する『フュージョン』、触れた物を黄金に変える『ゴージャスタッチ』等があるそうだ)を『超レアスキル』と呼んでいる。

 だから、『超レアスキルとレアスキルの差』は、威力や使い勝手ではなく、『使い手が二人以上いたかどうか』でしかないのだ。


 ちなみに『メガクラッシュ』は過去に前例がない、『新しく出現したレアスキル』だった。なので当然、まだ俺しか使い手がいない、超レアスキルだ。

 この『メガクラッシュ』は国王によると、「完全無敵なんて、どのスキルにも絶対に真似できない。すべてのルールをちゃぶ台返しするような、とんでもなく卑怯なスキル」であり、「攻撃力はオマケみたいなもの」らしい。もっとも、チャチな武器でも暴漢数人に対抗できる攻撃力を、オマケ扱いしていいのかは甚だ疑問だが……。

 マリオンが、泣きそうな顔で言う。


「オ、オレはまだ……『カウンター』を所持してるはずなんだ……」


 マリオンは懐から札を取り出す。特殊なインクを染み込ませたその紙は、スキルチェックと呼ばれる魔道具だ。適当な店にいけば、銅貨一枚で手に入る。スキル持ちの戦士や傭兵は、これを使って自分をアピールするのである。

 マリオンが札を口に咥えると、すぐに反応して赤い文字が浮かび上がる。出てきた文字は、『カウンター』……色が赤だから、やはりレアスキル。マリオンが所持してるのは間違いない。

 それを見て、ウラギールが腕を組んで唸った。それから、やや厳しい声で言う。


「ジュータさん。そろそろ、話してもらえやせんか? この娘っ子……いや。マリオンさんの正体を」


 俺は、マリオンの顔を見る。

 こうなった以上、もう秘密にしておけない。マリオンに確かめるように言った。


「話すよ。……いいかな?」


 マリオンは、黙って頷いた。俺も頷き返し、エールを一気に飲んで酔いで勢いをつけると、ウラギールとシャルロットにマリオンの過去を話し始めた……。

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