ここは地獄の一丁目

 なんとか時間稼ぎをしようと、俺はシャルロットに声を掛ける。


「な、なあ……シャルロット。いくらなんでも、いきなり斬りつけるのは乱暴じゃないか?」


「しかし、こやつは王国の平和を乱そうとする敵です!」


 相変わらず殺気を放出するシャルロットに、疑問をていするように俺は言う。


「それ、本当かなぁ? 殺した後で間違えましたじゃ、取り返しがつかないぜ? まず、しっかりと確かめた方がいいんじゃないか?」


 シャルロットは顎に手を当て、考えるポーズで言う。


「ふーむ、一理ありますね。では、どうしたらよいでしょう?」


 やった、乗ってきた!

 俺は動物をなだめるみたいに、手でシャルロットを制しながら、マリオンの隣へと移動する。


「よーし、よしよし……どうどうどう。……そうだな。まず、尋問だよ……尋問をしよう! なっ? マリオンも、それでいいよな!?」


 マリオンは、おずおずと頷いた。

 シャルロットは俺らに剣を向けながらも、従う態度を見せる。


「なるほど、尋問ですか……いいでしょう! ただし、ジュータ殿! あなたは操られてる恐れがありますので、尋問は私が単独で行わせていただきます!」


 俺はホッとした。とりあえずこれで、時間を稼げそうだ。

 俺とマリオンは、並んで床に正座する。

 もしもシャルロットが斬りかかったら、俺は身をていしてでもマリオンをかばうつもりだった。

 覚悟を決めつつ、俺は頷く。


「よし、始めてくれ!」


 シャルロットは仁王立ちになり、剣を床に突き立てると、柄に両手を乗せた。

 こういうポーズを取ると、凛々しくも美麗な女騎士様に見えるから不思議である。やってる事は、アホ丸出しなのになぁ。

 シャルロットは、よく通る声で威張って言った。


「嘘を言ってると判断したら、即座に断罪させていただきますよ! では、尋問を開始します!」


 それからマリオンへと視線を向ける。


「ナゴヤ・ニャアコっ! あなたは、先ほど世界征服を口にした! ……間違いありませんねっ?」


 マリオンがうつむいたまま、ボソボソと言う。


「ええっと、あの。……まず、誤解があって。オレは、マリオン……坂口真利雄って名前であって、名古屋ニャア子じゃないんだけど……」


「は? 意味がわかりませんねっ! あなた、自分でナゴヤ・ニャアコと名乗ってたではありませんか!?」


 マリオンは耳まで真っ赤にして、居心地が悪そうにモジモジし始める。


「そ、そうなんだけどぉー。……アレは、ただぁー……そういうフリをしてたっていうかー。あのう……コ、コスプレって言ってぇ……成り切って遊んでただけであってぇ……?」


 ……い、いやーっ、これは恥ずかしいよな!?

 でも、がんばれ、マリオンっ!

 あと頼むから、もっと堂々と受け答えしてくれ!


 案の定、シャルロットは答えが気に入らなかったらしく、剣を少しばかり持ち上げると、威嚇いかくするようにズガンッ! と床に突き立てて、大声で一喝する。


「意味がわかりませんッ!」


 マリオンが、ビクリと身をすくませる。

 俺は慌てて、マリオンに囁いた。


「マ、マリオン! そういう態度は、なんか嘘くさい! シャルロットの目を見て、もっとハキハキと答えるんだ!」


「あ、ううっ。で、でも、オレぇ……。女の人が怖くってぇ……あいつ、めっちゃオレを見てくるし……」


 シャルロットが、殺気を含んだギラギラと血走った目でマリオンを睨んでいる。

 うわーっ。確かにこええわ! なぜ初対面の人間に、こんな失礼な視線を堂々と向けられるんだ、こいつは!?

 と、シャルロットが口を開いた。


「名前が不明なので、あなたを『幼女』と呼称します! ……よろしいかっ!」


 メイド服姿のマリオンは、身体を縮こまらせて頷いた。


「う。は、はい……。とりあえずもう、それでいいです……」


 姿形と口調だけは立派なポンコツ女騎士、アホのシャルロットによる地獄の尋問は、まだ始まったばかりである。

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