真剣なアホは度し難い
突然の
「お、お前は……シャルロット!? 西から戻って来てたのか!」
シャルロットはマリオンに剣を突きつけたまま、大声で怒鳴る。
「貴様ぁーっ! さっきから聞いてれば、
シャルロット・ドゥ・ヴィリエ(21才)、俺の知り合いの女騎士である。
レアスキル『デュエル』を所持していて、これは『対象の一人を決闘相手として宣言』することで、そいつからのスキルダメージを完全無効化し、さらに対象限定で攻撃と防御をアップするという、「自分だけパワーアップするくせに、正々堂々ってどういう意味ですかね?」と首をひねりたくなる代物だ。
しかも対象の名前は、『シャルロット本人が認識してる名前』でいいので、本名がわからなくても発動可能と、なかなか反則級のスキルである。
正直、俺が負ける相手がいるのなら、こいつかウラギールくらいだと思うのだが……シャルロットはオツムがあんまりよろしくないので、いつも多数相手に突っ込んで、他の奴らに袋叩きにされている。
最初に言っておく。
俺は、こいつを女だと思ってない。
重要な事なので、もう一度、言っておく。
俺は、こいつを女だと思ってない。
慌てた俺が割って入ろうと一歩前に踏み出すと、シャルロットは剣を俺へと向けてきた。鋭い刃先が光を反射して、冷たく輝く。
「ジュータ殿、動かないでくださいっ! こやつは先ほど、あなたに怪しげな術を掛けてました! あなたは、操られてる恐れがあります! これは警告です……抵抗するなら、あなたから倒す覚悟がある事を、お伝えしておきます!」
「な、なにぃ……っ!? バ、バカなぁー!!」
……くぅっ! こ、これは非常にマズイぞ!
はっきり言って、シャルロットはアホの子だが、俺はタイマンで、こいつに勝てるビジョンが思い浮かばないっ!
なにせ、剣の腕は向こうが圧倒してる上に、身体能力までアップするのだ。致命傷は『メガクラッシュ』の無敵で回避できるだろうが、こちらのスキルダメージも通らないんじゃ、ジリ貧になるだけだろう!
『デュエル』の宣言前に素早く組み敷こうにも、部屋の中で『メガクラッシュ』を使えば、マリオンまで巻き込む恐れがある。
ク……クソ、どうしたら……!?
マリオンが、おろおろしながら後ずさる。
俺は、大急ぎで叫んだ。
「マリオンっ、うかつに動くな! そいつは本物のアホだ! アホが凶器を持ってるんだぞ、大怪我する恐れがある!」
「うっ、ええ……えーっ!?」
マリオンが青い顔で、鞭を取り落す。
アホのシャルロットから発散される殺気が、マジもんだとわかったのだろう。キ●ガイに刃物である。下手をしたら、殺される……そりゃあ、怖いに決まってる!
マリオンは膝をガクガク笑わせて、可哀想なほど怯えきってしまった。
シャルロットは油断なく、俺らを交互に見ながら、マリオンに言う。
「ほう……? 自ら武器を捨てるとは、勝ち目なしと判断したという事ですね……よろしい。では、一思いに成敗してさしあげましょう!」
シャルロットが大きく剣を振りかぶった。
俺は自分の左手を指差して、阻止の声を上げる。
「まーっ!? 待て待てー! 見ろ、シャルロット! これを見てくれ! ほら、『一期一会』の刻印だよ! マリオンは、俺の奴隷なんだ!」
シャルロットは、俺の左手をジッと見た後で、不思議そうに首をかしげる。
「は? なんですかそれ……知りません!」
「……っ! マ、マジかよ! さすがはアホの子、一般常識も知らねえのか!」
次に俺は周囲を見回しながら、力の限り叫んだ。
「おーい、ウラギール! いないのか、ウラギールっ! この場を収められるのは、お前だけだーっ!」
シャルロットが、不敵に笑う。
「ふっふっふ……ウラギールはいませんよ! 彼は、ジュータ殿への手土産を買いに、菓子屋に寄りました。私は外で待ってるように言われたのですが、カワイイ猫ちゃんを見つけて抱っこしようと夢中で追っかけてるうちに、いつの間にかジュータ殿の屋敷の前にいたのです! 喉も乾いたし、お水でも飲ませて貰おうかと、これ幸いと一足先にお邪魔して勝手に井戸を使ってた所、楽しげな叫びが聞こえまして、仲間に入れて欲しいと窓から覗いて、今に至る……
「くぅうっ! 相変わらず、しょうもねえ行動ばっかしてやがる、こいつーっ!」
しかし、今の話は重要である。つまり、ウラギールもうちに向かってるという事だ。彼の到着まで時間を稼ぐ事ができれば……なんとかなるかもしれない!
最悪なパターンは、ウラギールがシャルロットを探して、時間を浪費する事だが……こればっかりは、どうしようもない。
俺は、俺にできる事をするだけだ!
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