TenSaiマリオンの元気が出るライブ

 『名古屋が征服♀雀くふうど』は大人気シリーズで、4本も続編が作られていた。

 ニャア子の歌う曲は、それぞれにオープニングとエンディングの他、挿入歌やキャラクターソングまであるので、すべてを歌いきるには、それなりの時間が必要だった。

 だがマリオンは俺のため、汗まみれになりながらも決して笑顔は絶やさずに、名古屋ニャア子に成り切って、そのすべてを歌ってくれた……歌ってくれたんだーっ!


 ……いつからだろう?

 俺の目には、マリオンの周囲に乱舞するマージャン牌や、背景のゲーム画面、脱がされたヒロイン達が映り、俺の耳には、このファンタジーな異世界では決して聞こえるはずのないポップなBGMと、電子的な効果音までが鳴り響いていた……もちろん、すべてが幻である。

 しかしエロゲーと言うものは、最初からすべてが幻想なのだ。それを知りつつ俺らは、素晴らしい恋愛や冒険に、喜んでその身を沈めて行く。

 であるならばっ! かくも気持ちの良い幻想が目の前に広がっていて、そこに飛び込む事に、何の躊躇ちゅうちょがあろうものか!?


 マリオンが歌い始めてから、すでに1時間が経過していた。夢かうつつかのマリオンライブも、名残惜しいが、そろそろ最後になろうとしている。

 マリオンの体力も限界だ……息が切れ、顔には疲労の色が強く浮かぶ。それでもマリオンは健気に手を差し伸べて、明るく笑った。それはとても愛らしく、心ときめく笑顔だった。


「それじゃ、ラストにゃあ! 名古屋ニャア子のベストソングと言えば、やっぱりこの曲……『ご注文はハッピー&アンハッピーセット』、いっくよぉー!」


 ノリノリのマリオンが力を振り絞って歌って踊り、俺もノリノリで合いの手を入れる。


「戦略ういろう無知蒙昧むちもうまい♪ ご注文は味噌煮込みうどん♪ セットで撲殺ぼくさつエビフリャー♪ 狙うは名古屋の世界征服ぅーっ!」

「ローン! マンガーン! ツモツモ、リーチ! ローン! マンガーン! ツモツモ、リーチ!」

「あーい、あいあい、会いたいにゃあ♪ アイラブユー、愛してにゃあ♪」


 俺の掛け声は実際のオープニングにもあったもので、ニコニコ動画ではこの部分で、いわゆる『弾幕』が形成されていた。

 マリオンは鞭を振り回し、楽しげにステップを踏む。スカートがめくれ上がろうが、おかまいなしだ!


「食べてみそみそ、かけて味噌♪ 洗脳しちゃうぞ、あなたの脳みそ♪ シナプスぷるるんコラーゲン♪ 世界の山ちゃん手羽先ガジガジ! 狙うは名古屋の世界征服ぅーっ!」

「洗脳されちゃう、されちゃうちゃう! ニャア子に忠誠誓いますーっ!」

「ラーラララー♪ ウラッラララー♪ 君が欲しいの、でもー♪」


 俺らのテンションが最高潮に達しまくった、その時だ。

 ガッシャーン! キラキラと、ガラスの破片が宙を舞う。

 誰かが窓ガラスを突き破って、飛び込んできたのだ。


「フォーーーーっ! ジャスティーッス!」


 そいつは大声で叫びながら床をゴロゴロ転がって、すっくと立ち上がるとマリオンに剣を突きつけた。

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