だってそんなの、ズルいじゃんッ!

 俺は、また叫ぶ。


「ズルいよっ! マリオンばっか楽しんでぇ!」


 そして俺は以下のような事を、困惑するマリオンに訥々とつとつと訴えた。

(なお、実際の俺は涙声かつ、興奮して何度もしゃくりあげ、所々が言葉になってなかったので、ノイズを排除したわかりやすい形で記載させていただく)



 そう、ズルいんだ!

 確かにマリオンの描く絵は、上手くてエロい!

 本当にお世話になっております、それはいつもありがとう、これからもよろしくお願いします。

 だけど、人は慣れるとさらに上の刺激を求めるものだ……贅沢を言ってるのは、重々承知してる……しかし、それでも言わせて貰う!

 俺はマリオンの絵には、どうしてもクリアできない二つの不満を持っているんだ。


 まず、マリオンの描く絵には『色』がない。エロゲというのは色彩豊かな仮想世界で、可愛い女の子たちが艶やかに色っぽく乱舞するものである。

 この世界の絵の具はいわゆる油絵の具なのだが、マリオンには、それを扱う技術がないではないか?


 そして次に『声』がない。エロゲと言えば声付きが主であり、某国民的家族アニメクレヨンしんちゃんの声優もシロい犬を含めて、全員がエロゲの仕事をしていたというのは、あまりにも有名なトリビアである。

 もちろん、俺も脳内再生可能な声は複数あるが、毎回それでは飽きるというものだろう?


 この『二大欲求』をクリアしてくれる、コスプレでエロゲソングをロリ声で歌ってくれる存在が、目の前にいるというのに……そしてそれは、俺の親友だというのに!

 その親友が、「自分ひとりで楽しむ、お前には絶対に見せてやらん」と、俺にイジワル言ってくるのだ!


 そ、そんなの……ズルいじゃんっ!

 あまりにもズルいじゃんっ!?

 俺にも楽しませてくれたって、いいじゃんっ!

 だって俺がマリオンの立場なら、絶対に見せてあげるよ?

 俺、マリオンが望むなら、マリオンのためにコスプレでエロゲソング、いくらでも歌ってあげるよ!?

 なのにマリオンは俺に、やってくれないわけ!?

 えっ、なんで? なんでなの?? なんでやってくれないの???

 俺のこと、嫌いなの? え、俺なんか嫌われることした?

 悪いとこあるなら言ってよっ! 俺、直すから!

 ねえ、どこ? どこが悪いの? どこを直したら、俺の前でやって見せてくれるの?

 はっきり言ってよ! 俺のどこに不満があるの? ねえってばーっ!

 ……ねえ、いいじゃん! 俺だって、マリオンと一緒に、同じ物を楽しみたいよっ!

 独り占めして楽しまないでよぉ……イジワルしないでよぉ……俺にも楽しませてくれたって……いいじゃーんっ!?



 マリオンは、俺の涙ながらの訴えを聞き、しばらく腕を組んで唸っていたが、やがてポツリと言う。


「……なあ、朝メシを食おうや。割れた皿の片づけを頼むよ、ジュータ」


 そして背を向けて、黙って朝食の用意を始めた。

 俺は止まらぬ涙を拭いながらも、うなだれたままチリトリとほうきで割れた皿を片付ける。

 しばらくしてからマリオンが、「ハァー」と深く息を吐き、言った。


「……ったく。つくづくクリエイターってのは、因果な人種だよなぁ」


 俺が不思議そうにマリオンを見ると、朝食のオカズをお盆に載せたマリオンが、難しい顔で言う。


「お前は、オレのファンだもんなぁ。……いいか、クリエイターってのはな、『ファンに喜んでもらうため』だけに頑張るんだ。見てもらいたい、ウケたい、楽しんでもらいたい、スゴイと言ってもらいたい。オレ達はな、それだけを情熱に、命を削って作品を生み出すんだよ。ジュータ……お前を満足させられなかったのは、オレの力不足に他ならない。オレは、お前に喜んで欲しいよ。だから、朝メシを食ったら……『開かずの間』に来い」


 俺は高鳴る胸を抑えきれずに、マリオンを見つめて上ずった声で言う。


「え!? そ、それってつまり……マリオンっ!」


 マリオンは、ふいっと顔を逸らしながら言う。


「鞭を回収したら、鍵は開けとく。オレの方はさ……着替えとか、髪のセットとか……時間かかるし。少し遅れると思うから、先に入ってろ」


 俺の胸に、感動が広がって行く! マ、マリオン……俺、マリオンのファンで、本当によかった!

 マリオンとジュータは……これからも……ズッ友だよっ!

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