三日目「おふろだいすき」
僕が荷物を取りに行くといってもたいしたものじゃなくてバックとタオルだけだ。あと着替えもか。でもちょっと落ち着こう。ホテルにあったイヌのフレンズが開発したというオリジナルの茶葉をお茶にして飲む。
「ふぅ…」
よしいこう!だいぶ心が落ち着いてからぐっと立ち上がる。ガラガラと浴場に入る。
「ふぅ…」
そこにはリョコウバトさんが浴槽で座っていた。
「ん?」
「え?」
「きゃあああ!」
「わああああ!」
二人は悲鳴を上げた。
「あ、キュルル…さん…?」
「こっちもびっくりしたよ!」
「セ、セルリアンかと思いましたわ」
「セルリアンみたことあるの?」
「はい、ジャパリパークの密林地方で見ましたわ…」
「大丈夫だった?」
「は、はい!私は飛んでいたので…」
なんだかリョコウバトはすこしおどおどしているように見える。というか前から僕と話すときは妙におどおどして目を合わせない。僕のことを怖がっている?ようだ。
「そういえばブタさん好きなの?」
「え、まあそうですわね…」
「その昔ブタのフレンズの群れに出会ったことがありますわ…」
「へー」
フレンズの群れ?
「………」
「ふー…」
妙にきまづい空気。リョコウバトはキョロキョロとしてから息をつく。
「気になってたんだけど、リョコウバトさんって僕のことなんか嫌い?」
「え?それは…」
「よく避けてるから…」
「……そうですわね…」
「あのー言いにくいのですが…私、別にキュルルさんのこと嫌いなわけじゃないんですわ…」
「ふーん?」
「ただ見てると思いだすことがあって…だからごめんなさい…」
「ううん…それって怖いけどリョコウバトさんが僕を気遣ってくれてるってこと?」
「それは…そうかもしれませんわ」
「ならリョコウバトさんが僕のことを気遣ってくれるだけで嬉しいよ」
「そ、そうですか?」
「……」
「……」
「あ、あの私から質問してもよろしいでしょうか?」
「あのーキュルルさんっていつも部屋で何をなさってるの?」
「え!なんで?」
「えーと、いや、部屋で何をなさってるのか気になって…」
一瞬昨日の夢の出来事がフラッシュバックする。僕は慌ててふりはらう。
「あ、そうそう!僕は絵描きなんだ!だからいろいろな人やものをいっぱい描いてそれで生きていきたいと思ってる!」
「へぇーそうなのですね、あの良かったら私の絵も描いてほしいですわね…」
「え!だったら良かったら僕はヌードを描きたい!リョコウバトさんの!」
「え…」
「あっ……」
勢いで言ってしまって僕は後悔する。だいたい衝動的にやってしまって後悔することが多い。
「あ、いや、ヌ、ヌード!って確か裸体を描くんですわよね?」
「そ、そう!僕はリョコウバトの体つきがすごく良いと思うんだ!!だだから残して置いておきたいんだよ!」
「……そ、そう」
興奮して妙な早口になってしまった。リョコウバトもなんだか取り繕ってくれてすこし救われる。
「……」
「……」
しばらくリョコウバトは何か考え事をしているようだった。
「あのーさっきから気になってたのですが…」
「「それ」ってなんですの?」
「そ…れ?」
僕はリョコウバトが指差す方を見た。頭が真っ白になる。
「昨日もそれをみた…気がするんですが…」
「え?え?」
「なんか部屋の方にきていらっしゃいました?」
リョコウバトは顔を無意識に赤めながら真面目に言う。
「はい…」
僕は嘘をつけなかった。僕はバツが悪くなって、下を向く。
「はぁー良かった!」
「え?」
リョコウバトが僕の返答に対して意外な反応をみせ困惑する。というかあのときリョコウバトは寝ていたはずだ。
「ね、ねぇ?お、覚えてるの?」
「はい」
「でもでも寝てなかった?」
「え?あーそういえば寝てたような気も?あれ?」
「……」
「でもなんであんなことしたんですの?儀式みたいなものですの?あの液体なんですの?」
「ええーと……」
「私気になってたんですわ。これ!よくみてもよろしいかしら?」
「……ええ?」
「キュルル君!入るわよ」
オオミミギツネさんの声だ。僕ははやくでようとリョコウバトの肩を掴んで距離をとらせる。
「え?ま、まだ気になることがありますの!」
「で、でも出なきゃ」
「しょうがないですわ…じゃあ…わかりました、じゃあ後日でいいのでお部屋にきてください」
「わ、わかった、じゃあ…」
「はい、じゃあ!」
僕はそそくさと逃げるようにお風呂場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます